大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も
- 日時: 2020/05/19 16:56
- 名前: 皇 翡翠
文ストの乱歩受けを中心に書いていきますっ!攻めも多分書くかと、
語彙力はあるかわかりません、拙く駄文ではあると思いますがそれでもよければ楽しんでってくださいね。
乱歩受けが好きになってくれると良いなぁ
・BL中心、たまにNLGLあるかも
・殆ど乱歩さん
・似非かも
・いろんな性格、設定、女体化、獣化、パロディ有
・シリアス、儚め、モブ有
・長編、短編
主に太宰×乱歩、福沢×乱歩、ポオ×乱歩、中也×乱歩
コメ、リクエスト一応受付ますが雑談の方で。
目次
short
・>>1-2甘酸っぱいlemoncandy(太乱) ・>>5-7-8氷砂糖と岩塩(太中)
・江戸川乱歩は大人であるードライな乱歩さんー(乱歩総受け)
福乱>>16 国乱>>17 太乱>>18 中乱>>19 ポオ乱>>20
・確かに恋だった(太乱)>>29
・rainyseason
灰色の空(太乱)>>34-35 みずたまり(中乱)>>36-37
・黒白遊戯 マフィア太宰/太乱>>44-45
・こどものどれい モブ中/太中>>46-47
・ In the light 太中>>48
・一度で良いから 中乱 R18 >>51
・なんて不毛な、それでも恋(福←乱←太)>>52
・初恋は実らない、ジンクスさえも憎い 福乱>>53
・悪あがきとキス 太中>>54
・聖者の餞別 記憶喪失太宰の小噺>>56
・偽りはいらない ポオ乱>>57
・新たな教育方針(福乱)R18>>58
・たまごかけごはん>>59
・合言葉は「にゃん」である/太乱>>60
・ドラマみたいに/国乱>>61
・宇宙ウサギは月に還る>>64
・風が死を吹くとき(太乱)/微シリアス>>71
・ひきこもり人生(ポオ乱)/濡れ場あり>>72
・賭/太(→)中>>73
・百年の恋をも冷めさせてほしい(太乱)>>74
・水底の朝>>75
・せめて隣が、あなたじゃなければ(太乱+国)>>76
・なんて無謀な恋をする人>>77
long
・青から赤へ 太宰×乱歩
「好きです」>>3-4-10 変わらない目をして>>22-23 酔いで転んで>>38-39 青か赤か>>55 無意識な答え>>65
・拐かされて1>>11-12 拐かわされて2>>13-14-15 拐かわされて3>>24-25 打ち切り
・KISS FRIEND (乱歩総受け)
PLAYBOY(甲)(乙)(丙) 太宰×乱歩+モブ女性 (甲)>>31 (乙)>>42-43 (丙)>>66
・六日の朝と七日の指先 福乱 >>49-50,>>62-63
・待ち人探し(乱歩さん誕生日)/福乱>>67-69
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- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.54 )
- 日時: 2018/09/16 18:30
- 名前: 皇 翡翠
マフィア時代、任務帰りの車の中でちゅっちゅする二人で太→ ( ← )中な感じの甘めの太中
■悪あがきとキス
キスをするのが好きだった。
今のような疲れ切った時は特に。
興奮冷めやらぬ、けれど休息を欲する襤褸雑巾のような身体は、妙に人肌恋しくなってしまい(恐らく太宰―――あの糞ッたれの刷り込みに違いない)奴の部下が走らせる車の中で、ちょん、と包帯だらけの奴の指をつつく。
それが合図で、キスをする。
互いに目も合わせずに、触れるだけのキスを繰り返し、時折、ちゅ、と唇に吸い付く。小鳥のようなキスだ。
けれど、ちゅぱちゅぱと音を立てて互いの咥内を荒らすのはどうにも好きになれない。「んッ」と甘い声を漏らしてしまうのも、じんじんと身体の奥から痺れるような快感に酔わされるのも、そんな自分を見た奴が嬉しそうに笑みをこぼすのも、興奮した奴が瞳に宿した炎も、大嫌いだった。
それなのに奴は徐々にキスを深いものに変えて、息を奪い唾液を流し込みむりやり飲ませる。それを嫌がって首を振っても後頭部を押さえ込んで、唇を合わせる。こちらが嫌がろうがお構いなしだ。そればかりか逃げたことを咎めるように唇を甘噛みするしまつ。
舌と舌を絡められ吸い付かれ、口蓋を擽られ、思わず背を弓なりに反らしてしまう。
「ンッ、は……ぁ、あ…や、めろッ!」
どんと奴の薄い胸板を押すと、名残惜しそうに唇が離される。はあ、という吐息が唇にかかり、ふるりと身体が震えた。
「ねえ、興奮してる?」と奴が訊く。
「別に」とつっけんどんに言うが「興奮してるんだ」と愉快そうにするので脇腹を蹴り上げた。痛いという文句は聞いてやらない。だって、そっちが悪いのだから。
「照れてるの?」
「馬鹿言え」
「照れてるんだ」
「違ェよ」
下らないやり取りだ。
そう思うのに、甘い声だとか視線だとか、どちらのものかも分からない唾液で濡れた唇だとか、その奥に見える真ッ赤な舌だとか、その全てが熱になって身体を支配する。胸のあたりがそわそわとして思わず目をそらすが、これでは本当に照れているようで悔しくてたまらない。
あゝ、そうではなくて、もっと軽やかで生暖かいモノが欲しいのだ。明け方の微睡みのような、穏やかな、触れ合いが欲しいのだ。
「中也………ね、ね、中也ぁ……」
甘えたような声を出して太宰はすりすりと体を擦り寄せる。まるで猫のようだった。
「キス、したい。
………ね、君もキス、好きだろ?」
「………俺の言うことなんて、聞きやしねえ癖に」
すると、太宰はくすくすと笑って小声で言った。
「キスして下さいって、私にお強請りしてご覧よ。
そうしたら、キモチよくシてあげる」
カァッと顔が熱くなる。
次の瞬間、背中に衝撃。視界にはいけ好かない太宰の顔と天井。
「中也、私にキスして貰えて、嬉しいね?」
あゝ、くそ、これだからコイツは嫌いだ。
ぎゅうと目を瞑って俺は堪える。これから始まる奴からの嫌がらせが、ある種の刷り込みだと分かっているからだ。中原中也には太宰治が必要だという刷り込みだ。
たとえ、負け戦だとしても、抵抗をやめることはできない。
だって、それが俺だから。
- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.55 )
- 日時: 2019/10/13 16:07
- 名前: 皇 翡翠
青から赤へ 青か赤か
青いは進め。赤いは止まれ。信号は判りやすく色で判断している。黄は気を付けろという印であるが、気を付けるのは案外曖昧ではあったりする。そういう意味では二つの色で充分ではないかと思う。何故真ん中に曖昧なものを入れていくのか。
好きか嫌いかの二択で済む話を如何して此処まで拗らせてしまったのか。「判らない」それはまさに黄色そのものだ。
そんなことを思って部屋で乱歩さんの曖昧な言葉に苛立ちを覚えたりもしたが―――
キスをしたら、その先はどうなるものなのだろうか。
「たっだいまー」
今朝から大きな声を出して周囲―――探偵社内の人の注目を浴びた乱歩。そしてその後ろで腰を屈んでいる男、太宰は小田原からの帰還を示した。
二人であのまま太宰の家で呑み続けた為、太宰はすっかり二日酔いの気分を持ち越してしまっていた。それとは反対に乱歩は至って健康体である様を見せていく。大声から軽い足取りで事務所の一室を周って見せた。
「太宰と乱歩さん、一緒だったんですね。何処かホテルにでも泊まられましたか?それでしたら経費で落としますので―――」
「いいや、太宰の家で呑み続けていたんだよねぇ。全く太宰ったら酔ってこんな無様な姿を晒しちゃってさぁ」
国木田の予想は外れて、昨夜の呑み状況を乱歩が簡潔に話をした。だが、太宰の心中では、
―――酔ったのは乱歩さんでしょう!
と訴えたい気持ちもあったりするが、喋る気力が無い彼は何とか自分の椅子へと辿り着いた。それが精一杯であった。
「それじゃあ、乱歩さんは一応報告書を提出してください。太宰、お前も同行者として提出してもらうからきちんと身体の体勢を整えてペンを持て!」
まるで態度が人によって変わる国木田。すっかり体調不良な男に体勢を整えろなど鞭を打つ彼の口をめがけて睨みつける太宰。だが、国木田はその視線に気づくことなくさっさと何処かへと姿を消して行ってしまった。そして乱歩さんを捜し、顔を気だるいながらもなんとか動かしていくが、遠くで社長室に向かっている姿だけを確認出来た。
「……んん、何でかなぁ」
昨夜の様子を思い返してみるがあの時、確かに乱歩が酔いを理由に太宰へと近づいたのだ。それが何処まで彼の記憶に残っているのか、太宰はモヤモヤしながらもそれでも期待を捨てきれずにはいられないのだ。それもそうだろう。だって乱歩は確かに好意的な想いを抱いており、それを時折見せてしまっているのだから。
―――乱歩さんは私に気があるのだろうか。
酒に酔ってそのまま酔いに流されて起きた時には記憶が無くなっていた、だとか。色々と太宰は考えつつ、本人に確認する勇気も無い太宰はそのまま遠くに見える社長室のドアを眺めているだけだった。
次に乱歩との今朝を思い返す。ろくに机の上を片付けないまま、酔いに任せて二人は倒れ込むように寝てしまっていたので散乱しているそれを片付ける作業から一日は始まった。起きたのは、苦しさが襲い掛かってきたのだ。お腹の辺りが誰かに押されている様な、中に入っているものが戻ってきそうな気分になり、それで強制的に起こされたのだ。
「……ら、乱歩さん…?」
起きた時に、腹に有ったのは乱歩の頭だ。乱歩の頭が寝がえりで太宰の元まで近づいてしまったのだろう。寝る際に太宰は乱歩から一定の距離を取っていたのははっきりと覚えているからだ。
―――このまま隣で寝ていたら何をするか判らない。
理性を保つ為に、なけなしの理性を守る為に彼から離れていたのだ。
「ら、乱歩さん…起きて…起きてください…!」
あまり勝手に起こしてあげるのは可哀想では無いかと思いながらも、この体勢のままでは自分の身体の一部が口から出て来てしまうかもしれない、と考えて仕方なく彼の頭を動かす。頭を動かされた乱歩は、脳が覚ましてそれから順当に覚醒し始めた。
「……んにゃ、なんで…太宰が此処にいるの?」
「あれ、昨日のことを覚えています?乱歩さん、昨日私の家で酒を呑んでそのまま酔いつぶれて寝てしまったんですよ」
「………覚え、てない」
首を傾げてぽけーっとしている乱歩は心ここにあらず状態になり、太宰の言葉もろくに訊いていなかった。
「覚えていないんですか」
「―――なんで太宰の家にいるんだっけぇ?」
「そこからですか」
太宰はそれだけ訊けばそれ以上何も云えなくなり、疑問を持ち続けている乱歩を放っておいて空になっている缶を回収する作業に取り込む。乱歩も缶を持って中身が入っているかどうかを確認する為に横に数回振っていたが、ほとんど飲み干されていた。
「……酔っていた、酔っていただけだ」
ささっと片づけをしている太宰には聞こえない小さな声で呟いたので、勿論その声に誰かが応じてくれるわけも無かった。
そんな朝を送っていたので太宰は記憶を保管していなかった乱歩に何も云えなかったのだ。
―――あのキス、意味はなんだったんだろう。
只の酔っ払いの戯言ならぬ戯れ行為だったのだろうか。それとも、本心から近づいてきてくれたのだろうか。
自分の唇に指を当ててみても、もうすっかり感触が消えてしまって何も残っていなかった。
その寂しさを感じていると、乱歩が社長室から出て来て何か手土産を持ち自分の椅子へと腰掛けた。手土産と呼ぶには余りにも昔風な白黒使用で、現代におけるテレビや写真がカラーとなっているのに対して写真が写っているのにそれらも人の褐色の判別が難しい―――それは、今日の新聞だ。
乱歩はその新聞を受け取って端に乗せられている四コマ漫画を先ずは探していく。早朝のパパさんがやるように大きく新聞を前に広げてそれ以外の光景を遮断していく。太宰の姿も彼からは見えない様に、そして太宰からもまた乱歩の姿はたった数枚の紙によって遮断されてしまった。
「……乱歩さん」
試しに太宰は声を掛けてみる。
「……なに?」
興味が無い、腑抜けた返答が帰ってくる。
太宰は今乱歩を呼び止めたところで何か用事がある訳でも無い。云うならば、呼んでみただけ、という奴だ。一人言に近かった名前呼びは姿は見えずともしっかりと相手の元にまで届いていたのだ。
だからと云って、この先どうしようかと太宰は乱歩に対するアプローチを考えてしまった。考えて考えた末に出たのが、考えないという暴挙であった。
ぱさっと新聞が落ちる音が響く。
「え、ちょっと太宰?」
乱歩が大きく広げていたそれを簡単に奪い取り、それは簡単に床に落とされた。流石にそんなことをされるとは思っても居なかった乱歩は太宰を見てぱちぱちと何度も瞬きをした。
「乱歩さん、今迄通りで構わないと思っていましたけれど矢張り駄目でした」
「……え、ええ?」
流石にこの場では誰かに訊かれてしまうかもしれない危険性がある為、半ば無理矢理彼の腕を掴んで人気の無い階段へと連れて行く。本当に階段だ。通路だからこその危険性もあり得るが、基本的に使用されない階段は二人の姿を隠すのに充分役に立つ場所なのだ。
二段下がって太宰は乱歩を見上げる。見上げるとはいえ、元々の身長差がある為に段差によってそれが中和されたのだが。
「乱歩さんは私のこと好きですか、嫌いですか?」
「―――だ、だから…判らないって」
「だったら判ってください。自分の気持ちなんですから判らないなんて曖昧なもので誤魔化さないでください」
変わらない、普通通りにしていると気を付けていたものの、とっくに太宰の頭の中では普通を装うのに限界が来ていたのだ。
「……嫌いって云ったらどうなるの?」
「そしたらもう私は貴方に近づきません」
「……好きって云ったらどうなるの?」
「そしたらもう私は貴方を離しません」
乱歩は戸惑っていた。このまま、変わらない状況に甘んじていたからだ。甘んじて彼の家に勝手に上がり込んで寝て、世話になっていた。それでいい、それが一番平和で変わらないとはこういうことだと思っていたからだ。
『何も変わらないでいいんですよ』
黄色は危険。
まさにその通りだあやふやに綱渡りなんてものに挑戦して、渡り切ることも断念する度胸も無く、何時までもぶら下がっていれば、どん底に突き落とされてしまうのだ。
「……判った」
乱歩はついに決心をした。
- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.56 )
- 日時: 2019/08/10 19:19
- 名前: 皇 翡翠
聖者の餞別 記憶喪失になった太宰のお話でカプ要素薄め
「それでねぇ、敦君。彼ってば、私のことを見て幽霊でも見るような顔をするのさ。
それがなんだか可笑しくて堪らなくなって、私はその彼にニッコリと笑いかけたという訳だ」
太宰さんは嬉しそうに目を細め、頬を紅潮させながらそう言った。僕はなんて言ったらいいのか分からず「へえ」だとか「ふぅん」だとか意味のない音を口から出す。それがお気に召さなかったらしい彼は秀麗な顔で拗ねた子供のように幼く不満を訴えた。
「ちょっと敦君。聞いてるのかい?君が話し相手になってくれないと暇で仕方がないというのに!」
「……すみません。
それで、太宰さんは………その…中原さんに言ったんですか?」
「記憶がないってことかい?そりゃあ、言ったとも」
僕の先輩が生まれてから今までの記憶の一切を失ってから一ヶ月が経った。彼が行方知らずになったのはその更に二日と数時間前のことだ。その先輩というのは僕の隣で上機嫌で笑いながら昨日出逢ったという男の話をしている太宰治その人である。
行方知らずになった太宰さんが見つかった時、彼は川に浮かんでいた。否、沈みかけていたのかもしれない。
目を瞑り口を少しだけ開けた顔は酷く穏やかで、その右手に持つ花々はやけに鮮やかに見えた。
まるで絵画のようで、僕は恐怖した。
本当に今度こそ死.んでしまったのではないかと思われたのだ。
「―――――っ!をしているのだ!早くあの唐変木を此方に引き摺り上げるぞ!!」
そう国木田さんが叫ばなかったら、きっと僕は太宰さんがそのまま息絶えてしまうその瞬間まで、息をするのも忘れて彼の姿を見ていたに違いない。
そうして僕と国木田さんによって川から助けられた太宰さんはこんこんと眠り続け、医務室の寝台から目覚めた時には記憶の一切を失っていた。
しかし記憶を失っていても太宰さんは太宰さんで、日常生活はおろか探偵社の仕事も卒なくこなし(ちなみにサボりぐせさえも健在であった)頭脳も今まで通り明晰であった。
ただ一つ、ポートマフィア及び彼自身の過去のことのみ忘れてしまったようだった。
探偵社の僕らは何度も話し合いを重ねて、自然に任せることにした。太宰さんはその結論に不満もなかったようで、けろりとした顔で「チョットも覚えていないほど忘れてしまいたい過去だったのなら、思い出す必要もないだろう」と言ってのけた。
僕は少しだけ喉に何かが詰まったような心地になった。
それから数日後。つまりは昨日。
僕はポートマフィアの中原中也に会った。
彼が僕のことを訪ねてきたのだ。正確には待ち伏せされていたのだが。「よお、探偵社」と小柄な青年が街で話しかけてきた時、鏡花ちゃんが警戒をあらわにしたから僕は彼がマフィアであることを思い出した。彼は何処にでもいる青年のような出で立ちだったのだ。
戦争しようってんじゃねえよと薄く笑い、それから世間話のような調子で「アイツ、記憶喪失になったんだってな」と事もなさげに言った。
「ついさっきまで仕事してたんだがよ。アイツに会った。
アイツ、全部、忘れてやがるんだな」
演技じゃねえことぐらいは俺にも判る、と彼は目を伏せながら呟く。赤毛が風になびきふわりと舞った。
「だからコレを手前に渡しにきた。アイツが昔俺に送りつけたモンだ。持ってても仕方ねぇから手前が持ってろ」
そう言って紙切れを僕に押し付けてくるりと踵を返してしまった。
その時、ふと、僕は思った。
まったくの勘であるが、彼ならば、太宰さんの記憶の中で、一番長い時を共に過ごしているのではないか、と。
「っ、待って下さい!!」
「―――――…………あ?」
だから、引き止めた。そして僕はポケットから折り畳んだ写真とネックレスを取り出して彼に見せたのだ。
「あなたなら、これが判るんじゃないんですか」とそう思ったからだ。
今よりも少しだけ幼い太宰さんが、眼鏡をかけた神経質そうな男の人と赤毛の男の人と写った写真。それから指輪とネームプレート――ドッグタグと呼ばれるそれが繋がれたネックレス。
彼はそれを見てヒョイと片眉を上げた。
「これ、太宰さんの部屋から出てきものなんです。
きっと太宰さんの大切なものなんでしょう?」
「……………知らねぇな」
「で、でも!」
僕は言い募った。
「太宰さん、この写真見て記憶を取り戻しかけました。
だからこの写真と指輪、それからネームプレートをもしもあなたが見た事があるなら、なんでもいいから、教えてほしいんです……!」
すると彼はふっと笑いを漏らして「俺とあの青鯖野郎は、手前が思ってるほど長い付き合いじゃあねェんだよ」と言った。
「ただ――――
そのネックレス。そいつは俺への嫌がらせだな」
それだけ言うと、彼は今度こそ去っていってしまった。
僕は彼に押し付けられた紙切れを見た。
紙切れの端に遺された言葉。
僕は自分がなぜ生きていなければならないのか、それが全然わからないのです
生きていたい人だけは、生きるがよい
殴り書きの遺書らしきそれは、握りつぶされたようにくしゃくしゃになっていた。
黄ばんだその遺書を彼がなぜ僕に握らせたのか。
太宰さんがしまいこんでいた指輪に刻まれた「A5158」の意味と、「甲ニ五八」のネームプレートの意味は。僕は未だ知らないままで、きっとこれからも知ることはないのだろう。
「それでねぇ、私、彼に訊いたんだ」
回想にふける僕に太宰さんが話し続ける。
「君から見た私はどんな人間かい?ってね。
そしたら彼こう言ってた」
――――悪い奴の敵、だろ。
- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.57 )
- 日時: 2019/08/18 13:27
- 名前: 皇 翡翠
偽りはいらない (ポオ乱)
人混みは酷く苦手である。
その大群が会話等されてしまった時にはなお苦手である。頭を抱えて出来るだけ自分に音沙汰無く時間が過ぎる事を待つことしか出来ない。
「はあ……」
そんなわけで、今まさに頭を抱えてしゃがみ込みたい気分を溜息一つに集約した。
乱歩君と共に出掛ける予定があり、真逆の駅前で待ち合わせをする事となってしまったのだ。我輩が何か云う術も無く、乱歩君が一人でに決めてしまったのだ。
そして約束時間になっても彼は来ない。そして我輩を見てない様に人々は右往左往と動き回り、どんどんその数は増えていくばかりであった。人酔いをしてしまいそうである。皆が騒いでいるのに、一人だけお通夜の雰囲気になっている。
「……乱歩君、まだであるか」
好きなあらいぐまが街中を歩いている筈も無いので、癒しが全くない環境の中、必死に乱歩君の姿を捜していた。
すると、隣で知らない人の声が聞こえてきた。
「済みません、ちょっとお時間頂いてもよろしいですか?」
身長が高めの女性。かと思うと、彼女はヒールの高い靴を履いていたというだけのことであった。乱歩君よりも高いのかと思って少しどきりとした。
……それよりも、出来るならばこの場は静かに凌いで大人しくしていたい。そう考えてみても、隣の女性は見過ごせない程に会話を続けてくる。何もこちらから返事をしていないというのに、何か呪文を唱えている様である。
「―――で、よろしければ髪を切らせていただけないでしょうか」
髪の毛?何の話であるか。
閉ざしていた為、相手の話の内容が全く分からないが、神―――では無く、髪の話をしていた。
結構だと断ってみるも、この女性は平気で私情を聞き出そうとしてくる。あれこれ彼女から逃げようと試案してみるが、互いの会話が上手く噛みあわない。
取りあえずこの場を去ろうか、と動き出そうとした時であった。
実にタイミングが悪かった。
乱歩君とは待ち合わせ場所を変えれば善い、と思っていたのだが……
「……あれ、何してんの」
漸くお相手の乱歩君が現れたのだが、
「……お知り合いの方?」
乱歩君は近づいて、こう云った。
どうやら乱歩君はこの顔も碌に見れていない、名前も話の内容も判っていない相手と知り合いではないかと誤解されてしまっているのか。
「ぃ、いや違うのである。乱歩君が…」
小さな声で否定をしてみるも、乱歩君にも隣にいる女性にも聞き取られていなかったみたいで、首を傾げられてしまった。
「…この方とご友人ですか?今、少しお話をさせて頂いていまして…」
乱歩君にも女性は声を掛けると、さも不服そうに乱歩君は表情が変わった。彼女を睨むかのように。小さな身体は彼女と張り合うように向かい合った。
「ご友人というか、今日は僕に付き合ってるつもりだったんだけど」
「つ、つきあっ…?!」
乱歩君のその発言に非常に驚いてしまった。掠れた声のおかげで大声にはならなかったが、それでも我輩含め3人はやけに駅前で目立ってしまっていた。日本の駅前はこんなにも人が集っているものなのだな、と今になってどうでもいいことを考えてしまった。現実逃避…という様に。
「でも、君がこの人と約束があるんだったら僕は一人で出掛けるよ」
「え、乱歩君!我輩そんなつもりは…」
乱歩君は今度は我輩を睨んできた。なんなのだ、この三角関係の様なものは。物凄く歪であるが。
少し睨みつけてから、直ぐに乱歩君は何処かへ向かって行きそうになってしまった。こんな地理が判らぬ場所に一人にされるのは非常に苦痛だ。
「済まぬ…失礼する」
女性に一言詫びを入れて我輩は慌てて乱歩君の背中を追いかけて走っていく。こんなに走ったのはいつ振りだろうか。
「ら、乱歩君…待って…息が……きれ……」
はぁはぁ、と仕舞には膝を曲げて止まってしまった。乱歩君に追い付けることも無く。毎日本と原稿に向き合っていた生活を送っていたからか、体力に弱点があることが露呈されてしまった。このままでは乱歩君を見失ってしまうではないか。
今日は乱歩君と出掛ける約束があるからこうして楽しみにしていたというのに、如何して…こんな展開になってしまったのであるか。恋愛小説はあまり得意ではないのだ。この時、如何したらいいのか判らない。
「何やってるの」
すると、前で知っている人の声が聞こえてきた。
今日はよく声を掛けられる日だ、とゆっくり顔を上げると、そこには矢張り知った顔の主がいた。
「乱歩君」
「凄い汗かいているけど、大丈夫?まあ、大丈夫じゃないか。無理して走るからいけないんだよ」
莫迦だね、と云いながらも乱歩君は手を差し伸べてくれた。その手を無意識に取った。小さな手は、しっかりと我輩の身体を起こす助けをしてくれた。
「どうせ君の事だから変な勧誘に声を掛けられてもどうしたらいいのか判らずに戸惑っていたんでしょ?ああいう時はさっさと何処かに逃げるのが一番だよ」
「そうだったんであるか…」
「本当に君は人付き合いが下手だよねえ。もっと自分らしくいかないと後々悔いを残す事になるよ」
それから彼は直ぐにこれから向かうべく場所へ方向を転換していく。真っ直ぐ進んで此方をもう見る事は無いようだ。
けれど、一つだけ引っかかっていたことがあった。
「ら、乱歩君…あの時、付き合ってると云っていたが、それは如何いう意味であるか…?その乱歩君と我輩は其処まで…その……」
うまく言葉に表すことが出来ないが、乱歩君は我輩をそういう対象として見てくれていたのであろうか。まあ、我輩は乱歩君の事をきっと友人以上に好きであると思うけれども、そこまで互いの関係性は発展していたのであろうか。
そんな希望を少しでも思っていたが、
「え、買い物に付き合ってくれているんでしょ」
乱歩君は淡々と云った。当たり前だと。我輩のこの甘い願望は幻想であると簡単に打ち破られてしまった。これは我輩の小説書きの妄想癖が行き過ぎてしまったのか。
それよりも、と乱歩君は次々に行く目的へと連れて行く。手首をしっかりと掴まれて我輩は引っ張られている犬の有様だ。
「……あれ、ひょっとして何か変な事でも想像したの?」
「変な事って…我輩は別に、そんな破廉恥な事を考えてはいない!」
そこまで、は考えていなかった。まあ、将来的に破廉恥的な事にまで発展できるとは到底無理だとは思うが、少しだけ願望が途絶えてしまった。
「まあ、また付き合ってくれたら君の事を考えてあげてもいいよ」
ハートマークが付きそうな語尾。
その表現はどの意味があるのか。まだ、途絶えられていないとでもいうことだろうか。
「取りあえず、今日は二人で楽しむとしようか」
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