大人二次小説(BLGL・二次15禁)

文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も
日時: 2020/05/19 16:56
名前: 皇 翡翠

文ストの乱歩受けを中心に書いていきますっ!攻めも多分書くかと、
語彙力はあるかわかりません、拙く駄文ではあると思いますがそれでもよければ楽しんでってくださいね。
乱歩受けが好きになってくれると良いなぁ
・BL中心、たまにNLGLあるかも
・殆ど乱歩さん
・似非かも
・いろんな性格、設定、女体化、獣化、パロディ有
・シリアス、儚め、モブ有
・長編、短編

主に太宰×乱歩、福沢×乱歩、ポオ×乱歩、中也×乱歩
コメ、リクエスト一応受付ますが雑談の方で。

目次
 short                     
>>1-2甘酸っぱいlemoncandy(太乱)  ・>>5-7-8氷砂糖と岩塩(太中)
・江戸川乱歩は大人であるードライな乱歩さんー(乱歩総受け)
 福乱>>16 国乱>>17 太乱>>18 中乱>>19 ポオ乱>>20
・確かに恋だった(太乱)>>29
・rainyseason
 灰色の空(太乱)>>34-35 みずたまり(中乱)>>36-37
・黒白遊戯 マフィア太宰/太乱>>44-45
・こどものどれい モブ中/太中>>46-47
・ In the light 太中>>48
・一度で良いから 中乱 R18 >>51
・なんて不毛な、それでも恋(福←乱←太)>>52
・初恋は実らない、ジンクスさえも憎い 福乱>>53
・悪あがきとキス 太中>>54
・聖者の餞別 記憶喪失太宰の小噺>>56
・偽りはいらない ポオ乱>>57
・新たな教育方針(福乱)R18>>58
・たまごかけごはん>>59
・合言葉は「にゃん」である/太乱>>60
・ドラマみたいに/国乱>>61
・宇宙ウサギは月に還る>>64
・風が死を吹くとき(太乱)/微シリアス>>71
・ひきこもり人生(ポオ乱)/濡れ場あり>>72
・賭/太(→)中>>73
・百年の恋をも冷めさせてほしい(太乱)>>74
・水底の朝>>75
・せめて隣が、あなたじゃなければ(太乱+国)>>76
・なんて無謀な恋をする人>>77

long
・青から赤へ 太宰×乱歩
「好きです」>>3-4-10 変わらない目をして>>22-23 酔いで転んで>>38-39 青か赤か>>55 無意識な答え>>65

・拐かされて1>>11-12 拐かわされて2>>13-14-15 拐かわされて3>>24-25 打ち切り
・KISS FRIEND (乱歩総受け)
PLAYBOY(甲)(乙)(丙) 太宰×乱歩+モブ女性 (甲)>>31 (乙)>>42-43 (丙)>>66
・六日の朝と七日の指先 福乱 >>49-50>>62-63
・待ち人探し(乱歩さん誕生日)/福乱>>67-69

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20



Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.46 )
日時: 2018/12/20 10:35
名前: 皇 翡翠

こどものどれい

迷〇犬のエイプリルフールの園児ネタで変態に誘拐された二人
モブ中、モブ太要素と太宰が園児らしからぬ園児です


 中原中也は混乱していた。

 彼は誘拐された。まだ小学生ですらない、幼稚園児だった。目の前の発情しきった大人を前にして自分の未来を予想することはできず、ただ漠然とした恐怖に震えることしかできなかった
 彼は私立の幼稚園に通う子どもが誘拐された場合、犯人は身代金を目的とすることを知っていた。彼の通う私立幼稚園には富裕層の子どもが多かったから、そう教育されていた。
 だがしかし、彼は身代金目的で拐われたのではない。彼を拐った男は息を荒げポンと広いベッドの上に落とす。ギシ、という音が中原にはやけに大きく聞こえてぎくりと肩を跳ねさせた。
 たまらずに「やめろよ!」と中原が叫ぶ。
「やめろ!やだ、やだ!やめてよ!
 助けて!お母さん!お父さん!
  先生!先生!森先生助けて!」
色素の薄い瞳にぷっくりと膜をはる中原を見て、男は舌なめずりをした。そして「中也くんは今からお嫁さんになるんだよ」と猫なで声で言った。
 お嫁さん、と中原は繰り返す。お嫁さん、なんのこと?おれがお嫁さん?男の子なのに?どうして?このおじさんと?
 男は小さな花の刺繍があしらわれた愛らしいベールを取り出し艶やかな赤毛に被せる。「可愛いね、可愛いね」と男がうっとりと言って、中原の小さな口に齧り付いた。ナメクジのような舌が唇を舐め口の中を這い回る感覚。どうしようもない気持ちの悪さと、この男と二人きりで誰も助けに来てくれないのだという恐怖が小さな体を襲った。
 中原はとうとうぽろぽろと涙を流した。長い接吻から開放されるとベールを投げ捨てて赤ちゃんのようにわんわんと泣いた。

 そうして泣き疲れると、こてんと倒れて眠ってしまったのだった。

 だから彼は混乱していた。
 たった一人、男に誘拐されたと思っていたから、一人だけで誰も助けてくれないと思っていたのに、目の前にはよく見知った少年がいるから、混乱していた。
「中也?大丈夫?」
「、え…だざい……?」
少年――太宰治は眉を下げながら言った。
「そうだよ。僕だよ………。
 僕も中也と一緒に……いや、中也のちょっと前に、拐われちゃったんだ」
 太宰治は中原の通う私立幼稚園の近くにある公立保育園の園児だった。彼らは通う場所こそ違えど週末には必ず一緒に過ごすそれはそれは仲の良いご近所さんだ。尤も、会うたびに口喧嘩を始め取っ組み合いの喧嘩に発展しているのだが、二人はいつだってぴったりと寄り添ってぎゅうと手を繋いでいた。

 中原は太宰の存在にホッとしたのか再びぼろぼろと大粒の涙を飴玉のような瞳からあふれさせた。ひっくひっくとしゃくりあげる彼に、太宰は「泣かないで」と囁いてぺろりと涙を舌で掬う。しょっぱいなあと独りごちる太宰に中原は頬を赤らめ緩慢な動きで首を振る。それでも太宰は気にせずに次から次へと溢れる涙を舐めあげ、ちゅうちゅうとふくらとした頬に吸い付いた。
「んむ…ね、中也、泣かないで。僕がいるから………ね、ね?」
「ぅう、太宰ぃい………おれ、おれ……あいつにちゅうされたぁ……やだぁ。気持ち悪いぃ」
ぐずぐずと泣きながら太宰にどうにかしてと訴える中原は、普段の”皆のまとめ役”の少年とはかけ離れ、小さい男の子――それこそ赤ん坊のようだった。太宰は、頬を上気させ恍惚とした笑みを唇に浮かべながら「ああ!かわいそうな中也」とため息を吐いた。
「消毒してあげるから、お口開けて?」と太宰が言って中原が素直に口を開ける。赤く小さな舌が見えて、太宰は背中がむずむずとするのを感じた。その「むずむず」を我慢して口を大きく開き差し出された口に齧り付いて咥内に舌を這わせた。びくりと驚き跳ねる中原の体をそっと押さえてくちゅくちゅと舌を絡ませる。大人のちゅうって、こんな感じかな、と太宰は中原の歯列をなぞり、舌を摺り合わせる。その一つ一つに中原がびくびくと小さな体を震わせた。
 やがて「ぷはっ」と二人して息を荒げて口を離してお互いを見やる。つうと二人の間を銀の糸が繋げているのがなんだか恥ずかしくて、太宰は俯いて糸を断ち切った。
 すると中原が背を曲げ、もじもじとしながら俯く太宰の唇をかぷりと噛んだ。
「わっ」と驚いた声を出した太宰に、中原は顔を真っ赤にさせながら視線を彷徨わせ「もっと、消毒」と強請る。太宰はどきどきと五月蝿い胸を小さな手でおさえ「いいよ」と応えた。
 薄暗い部屋にくちゅくちゅと水音が響く。二人は体をぴったりと寄せ合いながら、お互いの唾液を交換した。
 いつの間にか太宰は男が中原に被せようとしていたベールを手にしていた。そして太宰は嬉しそうに中原の頭に被せた。中原はベールを被せられたことには気づかずに、こくりと太宰の唾液を飲み込んだ。

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.47 )
日時: 2019/04/01 17:52
名前: 皇 翡翠

 
 疲れきった中原がベッドで寝てしまったのを確認すると、太宰は鼻先に唇を寄せてから恭しくベールを取る。愛らしいベールに顔を埋め、すうと吸い込み頬を赤らめる彼の瞳にはちろちろと炎が燻っていた。
 「ちょっと待っててね」と眠る中原に囁き、とん、と軽い足音を鳴らして太宰は隣の部屋に向かう。
 もとより部屋には鍵が掛かっていなかったのだ。

 隣の部屋には彼らを拐かした男がソファの前で跪いている。それをフンと鼻を鳴らして嘲笑ってどかりとソファに座った。
「ね、おじさん。約束守ってくれてありがとう」
太宰は言った。
「僕が、中也をお嫁さんにしたいって言ったら、ちゃあんと中也を連れてきてくれたものね!
 偉い、偉い!」
まるでペットを褒めるような口調の太宰に、男ははあはあと息を荒げた。気持ち悪い、と太宰はピンと眉を跳ね上げる。

 しかしそんなことはおくびにも出さず「そうだ!おじさん、ご褒美あげるね」と太宰が言う。そして足を男の前に差し出し「舐めていいよぉ」と猫なで声を出しぷらぷらと降って見せる。
おじさん変態さんだから嬉しいでしょう?と太宰が言えば、男はごくりと唾を飲み込んだ。そして小さな包帯塗れの足にそっと手を添える。そろそろと足の指を一本一本なぞる男の目つきは餌を前にした犬のようだった。
「じれったいな。早くしてよ」
いつまでも足を弄り続ける男にしびれを切らした太宰が反対の足で男の肩を蹴った。
 すると男は太宰の足にむしゃぶりつき、小さな足をじゅるじゅると舐め上げた。
「………気持ち悪い」
太宰が言う。
「……ね、おじさん。おじさんは、とんでもない変態さんだけど、僕との約束を守ってくれたよね。
 でも、僕、中也にちゅうして良いなんて、一言も言ってないよ?」
男は太宰の言葉に瞳を揺らした。怒りに燃えた太宰の瞳は仄暗く、思わず身を震わせる。
「僕、約束を守れない人は嫌い」
吐き捨てるように呟き、足を振って男を蹴り上げた。そしてソファから降りると男の股間をぐいと踏みつけて「足、気持ち悪いから中也に“消毒”してもらうもん」と頬を膨らませた。その姿だけは、愛らしい幼気な五つばかりの子どもだが、ぎゅうと踵で男の股間を踏み潰す姿は幼気とは程遠かった。
 男は脂汗を流して悶絶しながらも目の前のどこか魔性を帯びた少年に魅入られていた。それを尻目に、太宰は「中也ぁ……」と先ほどの接吻を思い出してか自身の唇に指を這わせてうっとりとしている。
「ドレスは無かったけど、ベールは被せたし、ちゅうもしたし……。
 あとは指輪だけど…うーん、指輪は流石に準備出来ないなあ。でも、結婚と言ったら指輪だものね」
うんうんとうなりながら考える少年を、男はよだれを垂らして見つめていた。

「あっそうだ!」
太宰が何かを思い出したように叫んだ。
「あのね、おじさん。中也と僕が結婚できたら、おじさんはもう要らないの。だから、これでバイバイだよ」
最後に僕に踏んでもらえて良かったね、と天使のように微笑んで太宰が体重をかけて股間を踏み潰す。
「ホントは、僕たち二人でおじさんの所からバイバイしようと思ったんだけどね」と太宰が秘密を打ち明けるように耳に口を寄せた。
「おじさん、約束破って僕の中也に酷いことしたから、お仕置きだよ」
男は「お仕置き」の言葉に半ば恍惚としながら太宰を見上げた。
 太宰はその表情を馬鹿にしたように鼻を鳴らし男から離れる。そして「じゃあね、変態さん?」と手を振って中原の眠る部屋へと消えていった。

***
 
 部屋に戻ると中原が不安げにドアを見つめていた。
「中也っ!」と叫んで駆け寄ると、中原は「酷いことされなかったか」と太宰の全身をぺたぺたと触った。こそばゆいその感覚に体をもじもじさせながら太宰は「足、舐められた」と言った。
「足ぃ?!」
「うん……気持ち悪かった」
「あの変態野郎……!」
顔を真っ青にさせながら、次の瞬間に顔を真っ赤にさせて怒る中原に、太宰は心臓がぎゅうと鷲掴みにされたような心地になった。頭がふわふわして唇がにやにやと笑みを形作るのをなんとか抑える。
(中也が、僕のこと心配してくれてる。自分のことみたいに怒ってくれる)
それだけで吐き気を抑えて男に足を差し出した甲斐があったというものだ。

「でもね、中也、安心して」
太宰がくすくすと笑いながら中原にそっと耳打ちをする。
「僕ね、あのおじさんが見てないすきに、お巡りさん呼んだの。だから、僕たちお家に帰れるよ」
「ほんとかっ?!」
中原は安心したように笑顔を浮かべて「ありがとな」と太宰に抱きついた。
「うふふ………中也、素直で変なの!」
「なっ、手前……!」
冗談だよ、と太宰も中原に抱きつく。
「ねえ中也、僕、頑張ったから、ご褒美ちょうだい?
 ――――さっきおじさんに舐められた足、消毒して?」
耳に吹き込むように強請ると、中原は「ンッ」と小さく声をもらした。耳にかかる吐息が擽ったいのだろう。太宰から耳を守るように顔を離して「消毒って、馬鹿じゃねえの」と頬を膨らませた。
 流石に消毒してもらえないかあと少し太宰ががっかりしていると、ちゅう、と押し付けるだけの、接吻をされた。吃驚して中原の顔を見ると、悪戯が成功したかのような顔で「ご褒美」と得意気にされる。
 太宰は「……馬鹿じゃないの?」と返しながら、へにゃりと幸せそうに笑った。
 そして二人はどちらからともなく唇を寄せてちゅ、ちゅ、と接吻を繰り返す。

 遠くでパトカーの音が鳴り響いていた。

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.48 )
日時: 2019/07/24 22:24
名前: 皇 翡翠

 18歳の二人でどこに生きるかについての見解の相違って感じのしめっぽい太中

■In the light
「夜の匂いがする」と酔っ払いは言った。
日本酒を三杯ほど飲ませた後のことだった。酒精で顔を真っ赤にさせ、とろんとさせた目でじぃっと見つめて言ったのだ。ヘーゼルの瞳は溶けたチョコレートのようにどろりとしている。

「手前から、いッつも、夜の匂いがする」
「なんだい、それ。詩人にもなったつもりかい?
 それとも私から血やら埃やらの匂いがするって意味?」

太宰はつまらない戯言だと鼻を鳴らして酔っ払いをあしらった。
しかし中原はふるふると頭を緩慢に振って「そうじゃない」と目を伏せた。

「手前からは夜の匂いがするのに。夜の生き物みてえなのに。本質は昼の生き物なんだぜ」
「はあ?」
「手前はきっと俺とは違うんだろうさ」

太宰はきょとんとして、それから無性に苛々として中原の帽子を奪い去った。なにするんだ、と怒ることを期待して。
だが実際は太宰を一瞥すると嘲笑うように口の端をちょっと上げただけだった。

その時、太宰は心臓にびゅうびゅうと風が吹くのを感じた。そして友人に会いたくなった。織田と他愛もない無駄話をして、坂口をからかって、酒を飲むのだ。
自分に何かを求めて、そして失望する彼ではなく、友人と時間を過ごしたくなった。

「………店に迷惑かけないでよね」
そう言って中原の肩を支えて立ち上がる。
だって、ここの店は織田作や安吾と来るもの。中也のせいで出禁になったら困るし馬鹿らしい。
太宰はそう言い訳のように呟いた。

中原はいつの頃か極端に日のあがる時間に外出する事を嫌うようになった。冷たい夜の月の光を好み、任務で外を歩くときは太陽の光を避けるのだ。
太宰がどんなに彼を煽って賭けに持ち込んでゲームセンターに連れ出そうとしても尽く失敗した。

理由は解っている。
彼の出自だ。

「太陽の光は毒だ」と彼は繰り返し口にした。
まるで彼の上司であり師である尾崎のようだった。彼女もまた太陽の光を忌み嫌うかのような言動を繰り返す女性だった。

最初は彼女の影響なのだと思った。だって彼はとても単純で素直な性格の少年だったから。
尊敬する女性の言うことをそのまま信じてしまうに違いないと思った。

けれど違ったのだ。彼は彼なりに自身の出自と向き合って、そして結論づけたのだ。
中原中也は決して昼の世界に生きることのできない生き物なのだ、と。

馬鹿らしいと思う。
心底、中原中也は馬鹿だと呆れ返った。

太宰は酔いつぶれた中原をタクシーに乗せ彼の住むマンションへと走らせた。
隣でぐうすかと眠る中原の頭をそっと自身に寄せた。

ふんわりと、お日様の匂いがした気がした。
きっとこれが月の匂いなのだと思った。

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.49 )
日時: 2018/08/10 14:50
名前: 皇 翡翠

六日の朝と七日の指先

福乱 架空の疾患を扱っているため御注意ください




血が滲むほどきつく噛まれた唇が、白く色を失って震える。額に玉のような汗が溜まって、鼻筋を駆け降りてぼとりと滴った。それから、枯れた喉から濃い呼吸が締め出されて、真っ赤に膨らんだ拳がゆるりと脱力する。

「そうだ、俺がやったんだ。」

しんと張り詰めた空気に、インクを落とすように、一つ。酷く震えた男の声が、息を詰めた観衆の間に広まる。

僕は知っていた。

罪を暴かれた人間を襲う最初の感情が、羞恥であるということを。浅知恵は看破され、役者の如く朗々と積み上げてきた演技は見るも無残に舞台から引き下ろされる。その瞬間、困惑し目を見張る観客の足先に突き出された道化は、真っ先に羞恥を覚えるのだ。僕は奥歯を噛みしめる。

「そうだ、俺がやったんだよ!耐えられなかった、耐えられなかったんだッ!あの男に見下されて、手柄を横取りされて…お前らに!この気持ちがわかんのかよ!ああ?わかんねえだろうなあ探偵さんよォ!」

血走った瞳が見開かれる。先程までの朦朧が嘘のようにこちらを睨みつけてくる。僕のシャツの襟元を掴んだ手がわなわなと震えていた。男の唾が飛んで、それを合図にしたように動揺が走った。大きく手武骨な手が男を引き剥がす。あわてた警官が二人係で犯人を取り押さえた。ふうと息をついたのも束の間、カツカツと震えた足音が近づいてきて、僕の前でとまった。百合のような甘い香りがした。髪を乱した女が、おしろいの落ちた顔を歪めて僕を睨みつける。

「どうして、どうしてよ探偵さん!ねえ貴方、嘘だって言って頂戴!」

ひび割れて甲高い声。真実を受け入れられない女の慟哭が、僕の耳を打った。真っ赤に手入れした爪が、取り乱したように宙を切って大袈裟な身振りをする。僕はただただそこに立っていた。どこかで、水の膨らむごぽりという音が聞こえた気がした。それは、淀んだ空気を掻き出しきれなくなった、換気扇の音かもしれない。鼓膜についと触れたその音が、やけに意識に残っていた。目の前で騒ぎ立てる凡庸な女のことを、眺めながらにして忘れてしまうくらいには。

「乱歩、」

戒めるような声が響く。意識がずるりと引き上げられた。僕は女の顔を一瞥して、

「君、莫迦じゃないの。」

「何、言ってるの貴方、偉そうに!あなたが言ったことは出鱈目よ!」

女のヒステリックな声がこだまする。観衆が僕らを見つめる視線は腫れ物に触るようだ。冗談じゃない、僕は苛々と唇を噛んで、女の顔を見上げた。

「莫迦は君の方だよねぇ。目の前に真相を突き付けられて感情が整理できない稚拙さを、僕に押し付けないでくれないかな。不愉快だ。」

「乱歩」

「何ですって!貴方、さっきから聞いていれば偉そうに。つらつらつらつら、聞いていれば屁理屈ばかり!貴方の高説にはね、感情ってものが抜けてるのよ。あんたのせいで、あんたのせいでっ!」

最後の方は逼迫した呼吸に埋もれて聞き取り辛かった。僕は女の顔を白けた気持ちで眺めた。三秒後には忘れてしまいそうな平凡な器量の女だが、僕に対する憤怒は色鮮やかだった。ごぽり。また水の湧くような音がする。犯人をパトカーに押し込んだ警察官が、慌てたようにやって来て女を宥める。なおも騒ぎ立てる女をぐいぐいと引っ張っていった。なおも興奮する彼女を、別の車両に収容する。コンクリートを蹴り飛ばす硬いピンヒールの音が、ずっと耳の奥を叩いていた。

僕はスーツの前を手繰り寄せて、くるりと踵を返す。最近、こんなことばかりだ。本当のことを告げても、喜ぶ人なんていない。真実を白日に晒したって、被害者は帰ってこない。不幸な人が増えるだけだ。結果だけ見れば、僕は厄病神も同然なのだ。―悪魔のような独白を頭から追い出す。冷静で闊達な名探偵の足音が、梅の開く晩冬の空にこんこんと高く木霊した。

冬は終わりをちらつかせている。

「乱歩」

低い声が響く。別段大きいわけでもないのに、この人の声はよく通る。僕はぴたりと歩を止めて雇用主を待った。現場近く並木道は梅の上品な白で薄らと華やかだ。来るべき叱責の内容を予見して僕はきゅっと眉を寄せた。我ながら不細工な顔だろうと思う。

「何故あんな言い方をした。」

ほら、やっぱり。僕の父代りにして雇用主の男、福沢諭吉は特徴的な銀髪の下から、対象を射抜いて殺.さんばかりの鋭い視線を覗かせて立っていた。二十糎以上も上背の低い若輩者にそれは狡いだろう。僕は何か面白くない気持ちでもにょもにょと返事をした。

「あんなって、何。僕はそのままを言ったまでじゃない。」

「あのような言い方をしなくとも、賢いお前ならあの場にある人間がどれほど動揺しているか汲んでやることはできただろう。」

福沢さんが言うと全て正しく聞こえる。不思議だ。僕が全てを詳らかに語って見せても、あの女はそれを虚偽と罠ったのに。僕には判断ができない。つまらない気持ちになって、ガムの張り付いたアスファルトを睨みつけた。

僕にわかるのは、物事の真相とか事象とかで、つまり存在しないものは最初から掴めない。正しさは、今でも矢張り大人の手にあるのだ。

福沢さんの濃灰色の着物の裾が、ちらりと視界を掠めた。僕は黙りこくっていた。

「お前は見事に犯人の、被害者の心情を見抜いた。どうしてわざわざ他人に苦い思いをさせるような言い方になってしまうのだ。」

福沢さんは怒っていた。どうして感情を汲んでやらないかって?女の声が張り付いている―僕の推理には感情がないらしい。濃紺の帯の上で社長は腕を組んでいた。如何にもきちっとした彼の佇まいは、何時までも僕を甘やかしてはくれない。

どうしてだろう。本当のことを教えてあげて、何故僕が責められなくちゃいけない?そりゃあ、真実は口に苦し、だ。だからって、どうして僕が受け止めてあげなければならない?わからない。無性に腹が立った。胃の底でぐるりと不快感が泳ぐ。冷えきった晩冬の空気を肺にぐっと押し込んだ。全部飲み込むつもりで顔を上げる。福沢さんの鋭い視線がぶつかった。その瞬間、何故か無性にやるせなくなる。世界一の、自慢の名探偵を見る目じゃなかった。聞き分けの悪い子どもにうんざりしているのだろう。あんまり惨めで泣きたくなった。腹の底に沈めた筈の不快感が呼気と一緒に溢れてくる。僕の口が、勝手に言葉を投げつける。

「どうして僕が我慢してあげなきゃいけないのさ!わからないんじゃないよ、汚い感情が流れ込んできて、もう窒息しそうなんだ!みんなの気持ちが分かる奴は、わかっちゃった奴は、それに従わなきゃいけないの?」

社長が驚愕している。目を見開いていた。嗚呼、屹度僕は今、酷いことを言っている。わかってはいたが、止まれない。言葉は濁流だ。

「それなら、わからない方がマシだよ!」

頭がぼおっとした。一気に叫んだせいだ。耳元で蒸気機関車の叫び声みたいな音がする。福沢さんは怖い顔をしていた。怖い顔のまま、衝撃に頬の筋肉を引き攣らせていた。酷い顔。屹度失望したのだ。僕があまりに物分かりが悪いから。そう思ったら無性に泣きたくなった。不出来が憎い。中途半端に優秀なぐらいなら、いっそ福沢さんの持っている正しさにぴったり寄り添えるくらい、人格も素晴らしかったらよかったのに。

僕は硬直した福沢さんに背を向けて走り出した。とんでもなく惨めだった。

僕がみんなの気持ちや、都合や、理解や環境を推し量って親切にすれば良いのだろうか。父上と母上は偉大だったから、全部わかってくれた。しかし、混純の世界に身を投げ出したら、それはもう許されない?わかってしまうということは、受容しなければならないということなのだ。恐ろしい場所に生きている。僕は堪らなくなって足を速めた。

灰色の空に白梅が腕を広げている。酷く色身の無い街を、僕は当てもなく走る。冷たい空気がきゅうきゅう気道を絞めつけて、肺が焼き切れそうだ。運動は得意じゃないが、それでも走った。

僕はいつまでも子供だ。そんなこと、知っている。

知らない大通りを出鱈目に走った。

荒いだ呼吸が気道を焦がす。走って、走って、誰もいない公園まで逃げ延びる。逃げるも何も、福沢さんは追いかけてすら来なかった。それもそのはず、彼が本気で僕を捕まえようとすればスタートダッシュの段階で勝敗は決してしまうのだから。

酷く惨めだった。ゲホゲホと咳込む。咄嗟に、半ば習慣化された動作として口に手を当てる。

呼吸が落ち着いて、肩で息をつく。ずきりと、何かが痛んだ

それが、心なのか心臓なのか、判別は付けられなかった。

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20