大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も
- 日時: 2020/05/19 16:56
- 名前: 皇 翡翠
文ストの乱歩受けを中心に書いていきますっ!攻めも多分書くかと、
語彙力はあるかわかりません、拙く駄文ではあると思いますがそれでもよければ楽しんでってくださいね。
乱歩受けが好きになってくれると良いなぁ
・BL中心、たまにNLGLあるかも
・殆ど乱歩さん
・似非かも
・いろんな性格、設定、女体化、獣化、パロディ有
・シリアス、儚め、モブ有
・長編、短編
主に太宰×乱歩、福沢×乱歩、ポオ×乱歩、中也×乱歩
コメ、リクエスト一応受付ますが雑談の方で。
目次
short
・>>1-2甘酸っぱいlemoncandy(太乱) ・>>5-7-8氷砂糖と岩塩(太中)
・江戸川乱歩は大人であるードライな乱歩さんー(乱歩総受け)
福乱>>16 国乱>>17 太乱>>18 中乱>>19 ポオ乱>>20
・確かに恋だった(太乱)>>29
・rainyseason
灰色の空(太乱)>>34-35 みずたまり(中乱)>>36-37
・黒白遊戯 マフィア太宰/太乱>>44-45
・こどものどれい モブ中/太中>>46-47
・ In the light 太中>>48
・一度で良いから 中乱 R18 >>51
・なんて不毛な、それでも恋(福←乱←太)>>52
・初恋は実らない、ジンクスさえも憎い 福乱>>53
・悪あがきとキス 太中>>54
・聖者の餞別 記憶喪失太宰の小噺>>56
・偽りはいらない ポオ乱>>57
・新たな教育方針(福乱)R18>>58
・たまごかけごはん>>59
・合言葉は「にゃん」である/太乱>>60
・ドラマみたいに/国乱>>61
・宇宙ウサギは月に還る>>64
・風が死を吹くとき(太乱)/微シリアス>>71
・ひきこもり人生(ポオ乱)/濡れ場あり>>72
・賭/太(→)中>>73
・百年の恋をも冷めさせてほしい(太乱)>>74
・水底の朝>>75
・せめて隣が、あなたじゃなければ(太乱+国)>>76
・なんて無謀な恋をする人>>77
long
・青から赤へ 太宰×乱歩
「好きです」>>3-4-10 変わらない目をして>>22-23 酔いで転んで>>38-39 青か赤か>>55 無意識な答え>>65
・拐かされて1>>11-12 拐かわされて2>>13-14-15 拐かわされて3>>24-25 打ち切り
・KISS FRIEND (乱歩総受け)
PLAYBOY(甲)(乙)(丙) 太宰×乱歩+モブ女性 (甲)>>31 (乙)>>42-43 (丙)>>66
・六日の朝と七日の指先 福乱 >>49-50,>>62-63
・待ち人探し(乱歩さん誕生日)/福乱>>67-69
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- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.74 )
- 日時: 2020/02/24 17:38
- 名前: 皇 翡翠
百年の恋をも冷めさせてほしい(太乱)
百年の恋も一時に冷める。
なんてことがあればどんなに嬉しいことか。
食事を終えて事務所に戻ってきてまず目に留まった太宰を見てそう感じた。考える間を与えることも無く、冷めてしまえればどんなに楽だろうかと思う。
「あれ、乱歩さん。昼食は甘味処で済まされたんですか?駄目ですよきちんと栄養を摂取しなければ何時か倒れてしまいますからね」
「全く太宰は相も変わらず煩いね。まるで母親みたいだ」
「何を言っているんですか、母親じゃないですよ。恋人ですって」
「ん、んむ」
太宰はいったい此処がどこか分かってそんなことを平然と言えるのだろうか。
辺りを見渡してみると、幸い皆食事にでも向かったのか僕と太宰のみがこの空間を所持していた。そして何事も無かったかのように太宰は資料を見返す。
「乱歩さん、食事は良かったですか?」
「……まあね。今日は久しぶりに餡子を口に入れたいと考えていたからたらふく頂いてきたところだよ」
僕も自分の定位置に座ればそこには何種類かの書類が既に置かれていた。これ、全て目を通さなければならないのか。肩を大袈裟に落としてみる。
「餡子と言えば、今度新しいお店が出来上がるみたいですよ。近いうちに一緒に視察にでも行ってみませんか?」
「それは僕も知らない情報だ。何処で僕よりも早くその情報を仕入れてくるのか全く気になるもんだね」
すると太宰は一度書類を机に置いて、こちらに顔を動かしてきた。にこりと笑うその表情だけで何を言いたいのか解ってしまった。
「乱歩さんの為ですよ」
ああ嫌だ嫌だ。こうして何食わぬ顔をして僕の為だとその口は堂々と抜かす。
「でも僕暫く休みがあんまり無いんだよね。皆僕のことを直ぐに呼んではこの『超推理』にばかり頼ってしまう。もう少しは自分のことを磨く努力もするべきだとは思うんだけれどね」
椅子の背もたれに体重を掛けて背伸びをする。
「そうですね」
太宰は同調するように頷いた。
この感じだ。こうして太宰は僕に反論することも無く、僕の為だと情報を与えて、恋人だと堂々と口にする。
どうしてこうも簡単に出来得るのだ。初対面こそ少し僕の事を疑ってはいたが、すぐに僕に従順となっている彼。太宰。この男はきっと僕の知らない一面を見せないように巧みに逃げ惑わす。惑わされているのは僕の方だ。
「乱歩さーん、険しい顔をしていますが眠くなりましたか?」
「太宰、勘弁してくれ。僕はそんな子供じゃない、もう立派な大人だよ。何なら太宰よりも年齢が上であり、先輩だ」
「ええ、でも恋人です」
う。そう云われるとまた口を閉じてしまう。恋人、と云われてしまうとそれに返せる言葉がすぐに思い浮かばない。なんだなんだ、今まで僕が会話の主導権を握っていたというのにどうしていつの間にか掌握されてしまうのだ。国木田君や賢治君だと凄くやりやすいのに、太宰は僕を上手く取り込む。
この男にはもう僕のおおよそは知られている。そりゃあ根掘り葉掘り探せば穴は出てくるだろうが、僕からすれば太宰は穴だらけである。見解するだけでは解らないものが沢山ある。過去の話もあるだろうが、そういうことでは無く。何か太宰の嫌な一面を見たい。
「じゃあ、僕に何か欠点を見せてくれ」
すると、それしかないだろう。
「これまた唐突な話になりましたね」
困ったなあ、と頭を掻きながら視線を机に落とした。
しかしここで太宰から欠点を見せて貰えれば多少は冷めてくるだろう。
「僕が知らないことで、知りたいことだ」
「しかし大体本人が自分で欠点を口にするのは案外どうでも良いことだったりするもんですよ。出来れば人に弱みを見せたくはないですからね」
「それは恋人である僕にも、ということか」
「そうですよ。恋人にだったら尚更ですからね。出来るだけ格好良く相手の目に映っているほうがいいですから。それは私も同じことです。だから―――強いて言うなら自殺願望がある、といったところでしょうか」
それは知っている。
事務所の皆が知っていて、既にそれは欠点を通り越して太宰の特徴として捉えられているのではないだろうか。僕が言ったのは知らないことだというのに。会話が綺麗な平行線をたどってしまっている。
ずるい。太宰ばかり格好良くては僕の方が冷める気配を見せないではないか。百年の恋も一時に冷める。一時が来る気配も無い。これじゃあ僕が百年どころか千年、億年…募るばかりだ。
僕はあからさまに不貞腐れた顔を見せる。
「太宰ばかりずるい。僕はお前に欠点も見せただろうに。なのにお前はまだ格好良くあろうとするのか」
「乱歩さんの欠点。それは何のことでしょうか。私には乱歩さんを知り得る中で欠点なんてものは見つかっていませんよ」
なんてことだ。
にこりとこの鬼の笑みは僕の欠点を見ていないというのか。そりゃあ人間であろうと異能者であろうと完璧では無い。だからいろんな異能が存在しているのだ。僕にだって欠点はある。自分をそこまで買い被ってはいないから自分で認知はしている。自分の欠点を認知していない愚か者程目を当てられないからな。そんな輩は仕事で散々目に入れていたが。
「僕は太宰に欠点も見せた。だから太宰も欠点を見せるべきだろう」
「え――っと。乱歩さんは先程から何を頑なに私の欠点を知りたがるんでしょうか」
さすがの太宰も僕が考えていることが分からない、と会話を遮り区切りを付けようとする。
「乱歩さんは、今一人で何を悩んでいるんですか?」
悩み。悩んでいる、というか。
別に悩んでいるというわけでは無い、はずだ。ただ単純に冷めたいだけで。太宰を少しでも嫌いになりたいだけだ。それだけで、それが直接的なものである。
「百年の恋も一時に冷めるというから、それを試したかっただけだ」
「ほほう、またそれは極論で」
太宰はすっかり目の前の資料を忘れて目を開きこちらに身体ごと動かした。資料の上に肘を置いて。
「太宰ばかり格好良くて僕が冷める気配が無いのが悔しい」
「それは私も一緒ですよ。乱歩さんとこうして会話をしているだけでも冷めることは愚か、むしろ熱くなっていますよ」
「…会話の論争は熱くなっているとは思うけれど。そういうことなら僕も熱くなっていたかもしれない」
「いえいえそういうことでは無いですよ。まあそういうことも含めるのかもしれませんが」
なんだその歯切れの悪い言い方は。僕は露骨に首を傾げて直訳をするように促す。
「乱歩さんは単純に自分だけ好いていると考えているみたいですが、私だって乱歩さんと同じ気持ちですよ。百年の恋、なんて思ってくれているなんてそれだけで高揚してしまいます」
「本当かい?だって何時も僕の為だと云って尽くしてくれるじゃないか」
考えれば考える程に気分は落ちて行き、悪い方へと考えてしまい、僕ばかりが君を好きでいるみたいだと思ってしまう。それは嫌だ。
「尽くすのは好きだからですよ。だから云ったでしょう。格好良いところを見せたいから貴方の為に尽くすんですよ。私、結構恋人には優しいんですよ」
言いながら立ち上がると、僕の方へと近づいてきて見下ろす。
そしてほんの少しだけ唇が自分のに触れた。別にこれが初めてでは無いが、今ここで事務所内でされたことに驚いてそのまま椅子から転げてしまいそうになる。
時間として換算すればそれ程経っていないことなんだろうが、それでも僕には予想出来ていないことであった。
「乱歩さん、勝手に一人で冷めないで下さいよ」
熱い。頬が、首が、何もかもが。冷めないで、と云われてもお前のせいで熱はどんどん上昇をしていく。ほらまただ。またお前のせいで僕は。
そこで口惜しさが増して、今度は僕から口付けた。強引に身体を起こして太宰の顔に近づいたため、ただ掠めただけではあったが。
「ら、乱歩さん…」
するとどうだろう。僕の攻撃は見事に効いたらしい。おお、太宰の顔が赤くなっていった。これは僕の知らない太宰だ。知らなくて、多分知りたかった太宰だ。
「ふむ、安心した!」
その顔を見れてあっという間に僕の熱冷まし計画は終わった。
「安心しましたか?それは良かったです」
「うん、太宰の良い表情が見れて僕は満足した。もう少しだけ百年の恋とやらを楽しんでみるとしよう」
ものの数分の出来事。これを人は戯れと称するか、どう称するか。
僕にはそれでもこの恋人という印に新たに大きく塗り替えられた気がした。
- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.75 )
- 日時: 2020/05/03 11:28
- 名前: 皇 翡翠
水底の朝
caution
(時事ネタがうっすらと入ります。コロナウイルスを笑い飛ばせる人向け)
・
枕元のグラスが少し揺れると、すぐ後に電車の音が来る。夢と泥水のような眠りの間で、それを何度か見た。
夢の中で、私はつめたい川の中にいた。
気管から肺へ、氷のような水がするすると入り込んで、陸へ上がれない体は沈んでいく。こんな苦しい死に方は御免だ。おまけに、水を吸った体は膨張して、見るに耐えない醜悪な姿に成り果てていた。水中で苦しんでいるのも私なら、それを見下ろすのもまた私だ。私の意識は、とうとう体から自由になって踠く様を見下ろしているのに、そこに清々しさは全くない。ただただ、自分の体が水に食われていくのを見るだけだ。遠くで列車の音がする。誰かの悲鳴、血流が耳元で唸っていた。つめたい、つめたい。
その時ふと、右腕に大きな生き物を感じた。生者のあたたかい手が、私の半身を包み込んでいる。
「太宰」
水の向こうで、あるいは、線路の向こうで、誰かの声が呼ぶ。不思議なことに、その声を聞いた途端体を焼き尽くさんとしていた炎が少し弱まった。あるいは、氷漬けにされている感覚が薄らいだのかもしれない。自分の体の感覚なのに、ふわふわと乖離してよくわからない。
誰かが隣にいる。私はそれを直感した。しかし不安はない。一人きりで溺れ、踠き、身体中を蹂躙される感覚が遠のいて、私はしずかに水底を目指して沈んでいった。
「起きたか」
身体中の血液が逆向きに流れているような、内臓がぐつぐつ煮込まれて私の外殻を内からぐしゃぐしゃにしているような、酷い気分の朝だ。本当に朝なのかは知らないが、目が覚めた時を便宜上朝と呼ぶことにする。瞼越しの世界にはそれらしい光があって、真っ暗闇というわけではないらしい。覚えのある香りがする。体が重い。寒気を感じて、無意識に肢体を縮める。身体中の血管が、真冬の川から水を引いているかのようだ。それでも、私の意識は久方ぶりにちゃんとしていた。私はゆっくりと首を持ち上げて、布団から体が一部でもはみ出さないように注意しながら、上体を起こした。羽毛布団の上に、ずり落ちた毛布が乗っていて、背中には潰れた枕がある。見回した部屋は六畳ほどで、視界の先に開け放したドアがあった。それがそのまま台所に繋がっている。だいぶ奇妙な作りだが、確か、そんな部屋に住んでいると言った男がいたはずだ。
「織田作」
口を開いた瞬間、それを後悔するくらいの乾燥が喉を襲う。数十時間ぶりに空気に触れた声は、かさかさと掠れて萎んでいた。
「水があるぞ」
答え合わせのように現れた織田作が、枕元の机にからグラスを取って手渡してくれる。覚醒と、地獄のような眠りの狭間で何度か見たあの水面だ。
「ここは、君の部屋だよね」
幾分かマシになった声で尋ねる。
「そうだ」
「済まないが織田作、ここにきた記憶がない」
「例の酒場の近くで倒れているのを見つけた。酷い熱だったが、お前が本部の医療室を嫌がるから、ここに連れてきた」
「私が?」
記憶にない醜態に冷や汗が伝う。
「本部に連れて行こうとしたら、首領は嫌だ、と言っていた」
正確には、と織田作が付け足す。なるほど、しかしそれで彼が私を連れ帰ったのだとしたら、お人好しが過ぎるというものだ。私は喉が痒くなったのを感じて、慌てて彼から上体を遠ざけた。ゲホゲホと咽せる間も、彼は慌てて顔を逸らしたりしない。
「織田作、君、ニュースを見ただろう。どうやら未遂に終わったようだが、今回の自殺はーー」
私が些か困惑した調子で切り出すと、彼には珍しく、遮るようにして
「陰性だったぞ」
と告げた。
「え?」
「巷で流行っている新型ウイルスだが、マフィア内部では検査キットが配布されることになった。昨日の晩に念のため検査したが、陰性だ」
「それじゃあ、私の、免疫力を下げまくって新型ウイルスに罹患しよう自殺は」
「失敗だな」
織田作が肩を竦める。それに呼応するように再び咳き込むと、織田作は困ったような顔で背中の枕を直してくれた。気が抜けた、とはこのことだろう。確かに私は、体の抵抗力を弱めて街中を行き交う新型ウイルスを存分に取り込まんと徘徊した挙句、春を待つつめたい川で四時間ほど遊泳をしたりした。しかし、この期に及んでごく普通の風邪を引くとは考えていなかったから、すっかり拍子抜けである。流行に飛び乗った自殺計画は、通算百数回目の未遂に終わった。
「そうかあ、失敗か……」
呟く私の横で、織田作が薬を探している。つまらない風邪の代償に、身体中の臓腑が泥と泥水になったような不快感があるが、陽光の差し込む部屋で織田作の顔を見るとは貴重な経験だ。私たちは大抵、日の沈んだ街で地下に潜っている。
彼の方は、呟いたきり無口になった私を怪訝に思ったらしい。僅かに眉を潜めて、私の額に触れてきた。久しぶりに感じた他人の体温はひんやりとして、夏の木陰を思い出す。
「まだ高いな」
骨張った手が、私の前髪をかきあげるようにして温度を確かめている。目上に心地よい重みを感じて、私はうっかり半分ほど目を閉じていた。
「体温計があれば良かったな」
「持っていないのかい」
「お前が起きたら、買いに行こうと思っていた」
「つきっきりにさせてしまったのか、悪いことをしたね」
織田作は早く治せよ、と言った。私とて、死ねない風邪でいつまでも朦朧としていても苦しいだけだから、素直に頷く。拾ってくれたのが彼で良かったと思う反面、いつまでも彼の寝床を占領しているわけにもいかない。
そう考えて、ふと疑問が浮かぶ。
「そういえば、私が眠っている間、君はどこで寝ていたんだい?」
「……向こうのカウチに毛布を持っていったんだが」
織田作が珍しく言い淀む。その時、台所の方からぴいぴいと薬缶が叫ぶ音がした。彼が慌てて駆けていく。
再び布団の山に潜り込んだ私は、眠りに引きずられそうになる意識の片隅で、先程の夢を思い出していた。誰かが隣にいた、私が縋ったのかもしれない。つめたい川の、水底に足がつかずに、もがき苦しむ夜。しかしその時、救い上げてくれる体温があったはずだ。
「織田作」
張り上げたわけではないのに、声は台所まで届いたらしい。マグカップと薬缶を持った彼が、居間のドアに心配そうな顔を覗かせる。その髪に、普段は見ない奇妙な寝癖が残っていて、不意にああ、朝だなあと思った。
「なんでもない」
流し台の上についた小さな窓から、陽光が差し込んでいた。手間に吊された簡易収納の網棚には、片手鍋やフライパンが積まれていて、柔らかな逆光の中に織田作はきょとんと立ち尽くしている。私の唇は、隣にいてくれてありがとう、と動いた。しかし、何かがこそばゆくてそんなことは声に出せない。否、常ならもっとうまく伝えたはずだ。二人で気まずくなるような直球の言葉しか出てこないのは、やはり、風邪が頭まで回っているせいだろう。
柔らかな陽を溜めた台所で、彼は、しかし「ああ」と答えた。
- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.76 )
- 日時: 2020/05/12 19:19
- 名前: 皇 翡翠
せめて隣が、あなたじゃなければ(太乱+国)
「おい、太宰。お前仕事の調査書はちゃんと書き直したのか?」
「開口一番君はまた私にお説教でもするというのかい?ああ、全く…煩い小姑みたいじゃないか君は」
つい先程12時を越えた事を時計が知らせてくれてから、呆けている太宰を事務所で見かけた為、声を掛けたらこの反撃だ。
あからさまな溜息を付かれる。
しかし、それでもきちんと記されている書類を俺に渡されてしまえばそれ以上何か云える事は無かった。ちゃんと書類は文字で埋め尽くされており、彼は俺が云わずとも仕事はしていたらしい。偶々だろう。何時もは俺が云わなければきっと終えている筈がない。しかし今回彼が終えていたのには恐らく理由がある。
―――ああ、そうか。
俺は独りで完結してしまった。容易に答えを導き出してしまったのだ。
「あーっはっはっは、今日は莫迦みたいに天気の良い日だねえ。これじゃあ街中の人がごった返してしまいそうじゃないか」
「おや、乱歩さん。おかえりなさい。仕事は終えたんですか?」
事務所へと顔を出した乱歩さんは東北での依頼を受けて遠出をしていたのだが、今日昼過ぎに戻ってきた。
「ああ、実につまらなかったよ。折角久しぶりの遠出だったというのに、あまりに詰まらな過ぎてこの有様だよ」
「うわぁ、凄い量の御土産ですね」
この有様、というのはまさに両手にお土産を抱えて、依頼を解決したとは思えぬ程の観光っぷりを見て取ることが出来る。
そんな彼の御土産を見て俺も含めて多くの人が物欲しそうに集ってくる。
「ほらほら、皆は仕事をするんだよ。谷崎君、君はまだやることが残っていただろう」
しっし、と手首を巧みに動かして散れと指示をする太宰。そんなことをしている当の本人は一人で乱歩さんがわざわざ購入してくれた御土産から離れようとはしない。
「太宰…お前も仕事が残っているだろう。お前も離れろ」
「否、私の仕事はもう大方済まされているよ。今日はもう仕事は終了している。現に、君の手には私が済ませた調査書があるだろう」
その言葉に俺は何も言い返すことが出来ない。唇を噛み締めて太宰に反論する術を持たない俺はそこから数歩後ずさる。
「乱歩さん、昼食はもう済まされましたか?まだでしたら良ければ一緒にこの後どうですか?」
太宰は乱歩に昼食の誘いをする。
それを聞いて乱歩は既に口に甘い土産品を頬張りながらも顔を縦に振って応えている。乱歩さんなら土産品で既に腹を満たしてしまいそうだが、それとまた別ということだろうか。
……それより俺は仕事だ。太宰には珍しく仕事が残っていないらしいが、俺にはまだ仕事が多く残っている。この手帳に記されている理想とは今日も掛け離れた時間を無駄なことに消化してしまっている。
すぐ傍で会話に花を咲かせている二人を視界から消して、本棚へと向かい、やり場の無い憤りに髪を掻きむしりながら、どすどすと、地響きを気にすることも無く、足を動かしていく。何故、そんなに怒っているのか、恐らく誰にも理解し難いことだろう。この探偵社に居る者に理解出来る筈がない。乱歩さんには見透かされてしまうかもしれないが、それでも理解には苦しむだろう。実際、このやり場の困る感情は俺にもどうすることも出来ずにいるのだから。
五十音順に並べられているこの本棚。俺の目には確かに本の題名が映っている筈だが、脳がそれを認識してくれない。
振り返ると、仲睦まじい乱歩さんと太宰。
周囲では平然と仕事をこなしている人がいる中で二人は異常な光景ではあったが、これが彼等にとっては通常なのだ。
徐々に何かの感情は呆れにと変わり始める。そして溜息を付いてそれは呆れへと確信していく。
「それじゃあ、国木田君。頑張って仕事をこなしてくれ給え!」
「国木田。暇があったら何か面白い事件でも見付けてくれよ。それを僕がささっと解決して名探偵としての仕事を皆に見せてあげるから」
どうやら二人は土産から昼食へと移動していくらしい。
乱歩さんは自分が購入した幾つかを事務所の人に渡し、大方自分の机に置いて行く。別に乱歩さんは仕事をこなしているのだから何か云うつもりは無いのだが、あの隣に漂々と存在している太宰には云いたいことが山ほどある。仕事が無いと云っていたが、無いなら新たな仕事を与えられるのだから、今日は調査書を書き終えたら終わりという訳では無いのだ。
それでも、俺が何も云えずにいるのは、きっと勇気が無いからだろう。
「……勝てる筈がない」
乱歩さんが帰ってくると分かっていて太宰は恐らくそれまでに調査書を書き終えていたのだろう。太宰が真面目とはかけ離れた男であるのに、それでも今日ばかりは俺の催促に負けなかったのだ。
乱歩さんが帰ってきたら一緒に昼食の誘いをしようときっと前々から計画していたに違いない。
―――ずきりっ
鈍い音が何処かから聞こえてきた。誰にも聞こえることは無い。俺の身体の中にある何かがひび割れた。
せめてあいつの隣が、乱歩さんじゃなければ。
―――好きになったのは、俺が先なんだ。
そんなことを云えもしない俺は、乱歩さんの笑顔を見ていることしか出来なかった。
- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.77 )
- 日時: 2020/05/19 16:53
- 名前: 皇 翡翠
なんて無謀な恋をする人(福乱)
「しゃちょー大好きー!」
「……そうか」
「しゃちょーは僕のことすきー?」
「……ああ」
「えへへ」
にっこりと笑った乱歩の顔はほんのり赤みを帯びて、目も細めた。そして彼は、机に突っ伏して体勢を猫背にした。その反対席に居るしゃちょーと舌足らずに呼ばれた男、福沢は彼を見て飲み過ぎだ、とコップを取り上げる。
二人は仕事を終え、月が綺麗に夜を照らしていく中、行きつけの居酒屋へと顔を出していた。しかし、福沢と乱歩の二人でこうして正面向いて食事をする機会は久しかった。探偵社を含めて数人で来ることもあれば、福沢は一人で遅くまで社に残っていることも多かった。それが今回、乱歩が無理矢理こうして連れてきたことでこの場が設けられた。お互いに成人であるから酒を含みながら他愛無い会話をしていた。
「しゃちょー…は僕の何処が好き?」
「…お前は飲み過ぎだ。意識が朦朧としているじゃないか」
「そんなことないよー」
―――こうなってしまった乱歩はもう再起不能だ。
福沢は心の中で彼を覚ますことを諦めた。
「ふふっ」
乱歩はもう酒を何杯も口に入れて身体に取り込んでいた。それが身体に回ってきたのだろう。すっかり呂律もきちんとしないで、目も眠さを表す様に、福沢に話しかけていても真面に顔を向けることが出来ないでいる。顎を机にくっ付けて目を瞑ってしまっている。
酒のアルコールにも動ずることの無い酒豪の福沢は取り敢えず水を用意してあげる。
「んんー…如何して何も応えてくれないの…」
「………」
福沢は無言になる。
「……しゃちょーは、何時もそうだ。僕がしゃちょーを好きだって言っているのに、応えてくれない。僕の事を放っておいて、遠巻きに眺めていて、それで終わりだ。なんか社長…と壁が出来たみたいで、前よりも……」
最後は、口が上手く回らなかったようで、福沢の耳にまで届けることは出来なかった。
気が付けば、乱歩の顔からだらしない笑みが消えていた。
このまま眠るのではないか、と福沢は思った。
「……お前は一体俺から何を聞きたいんだ。お前が聞きたい応えを応えたところで、それは必ずしも良いことであるとは限らないだろう。」
福沢は乱歩にそう諭すが、彼は全くその言葉に納得をしていなかった。
しかし福沢は決して口を開ける男では無かった。酒をどんなに飲もうが、自白剤を使われようが、決して乱歩の「好きだ」という言葉に応える事は無かった。乱歩が嫌いな常識から外れているのだから、と福沢はそれ以上足を踏み入れる事を違えなかった。齢26の立派な男が、何時までも福沢から離れることが出来ないでいる。それを判ってからは、福沢から乱歩への距離を取り始めたのだ。
「……乱歩」
「……だったら、いっそ手放してくれたらいいのに。見捨てて、フッてさっさと句点でも打って終わりにしたらいいんだよ。そしたら僕も、社長として、これから頑張って接してあげるよ。頑張るなんて気力が居る事、本当はしたくないんだけど、社長がそうしろと云ったら僕はその通りにするよ」
―――乱歩が、手放す。
子供の乱歩と知り合ってから何年もの月日が流れた中で、彼との関係は何時だって均衡を保ってきていた。
それはあまりに歪なものだったが。
それでも、互いにその道を崩さないと暗黙の了解をしていた。口にはせずとも、互いに好きだと確定したものを求める事は無かった。
ことなかれ主義であった福沢は乱歩を手放す想像をした。
今まで考えたことが無かった―――考えたくなかった―――結末を、考えてしまい、一瞬危なかった。
乱歩は、むくりっと身体を起こして目の前に残された枝豆を無心で口に含んで、含んで、含んで…口を動かしていた。
「…ねえ、もうちょっと飲もうよ」
「もうよせ。水があるからそれにしろ」
「えー…いいじゃん明日休みだし!僕今日は頑張って働いたもん。今回の事件はあんまり歯ごたえが無かったけど、警察達が僕の異能を見てそれはもう、間抜け面を晒していて……」
一転。閑話休題。
あまりにも蛇のぶつ切りの如く急激な会話の方向転換に、何とかついて行こうと必死になる福沢。
乱歩は先程までの事をすっかり頭から黒板消しで黒板を綺麗にする様に、消え去っていた。好き放題に話し切ってすっきりしていた。
危なかった。もう少しで福沢は乱歩の雰囲気に流されてしまうところであった。冷静沈着である福沢が乱歩に乱されてしまうところであった。その乱れをせき止めたのも乱歩ではあるが、もし仮にあのまま乱歩が黙り込んでいたら、間違いなく福沢はあの均衡を破っていたかもしれない、と自分で反省した。
「ねえ、褒めて褒めて!」
乱歩は一通り自身の見事な異能力発揮による功績を話し終えて、頭を机を挟んだ向こう側にいる彼に差し出した。
「…あ、ああ」
何時もの乱歩である。
目の前にやってきた頭をポンポンと、2度程頭を軽く触れると、乱歩はご満悦らしく、にっこりとだらしない表情を見せた。乱歩が空気を呼んだのか、それとも彼は只単純に口を開いただけなのか、福沢に彼の真意は読めなかった。
「この後、社長の家にでも行こう!」
乱歩は急に立ち上がり、顔全体を赤くして云った。酔いが回っている彼は、勢いよく立ち上がった事で立ち眩みを起こし、足元が崩れそうになる。
福沢はそんな彼の容態にいち早く気づき、肩を掴んで支えた。
「―――もう、今日は帰って寝ろ」
二人して立ち上がって、そのまま帰宅しようと準備を始める福沢。
まだ気が済んでいない乱歩は、大きな声で無理矢理店を出させようと腕を引っ張る福沢に抗議の連発をするも、すっかり酔っ払いの相手に手慣れた男は耳を貸す気もせずに、そのまま会計を終えて冷たい風を与えた。
「さむい……」
「これで少し酔いでも覚めるだろう」
乱歩の前を歩いていく福沢。
「……何処に行くの?」
福沢の後ろをちょこちょこと付いて行く乱歩。
不思議に思いながらも乱歩は彼の背中を追っていく。
「お前を送っていく。一人で帰らせたらちゃんと家に辿り着けるか不安で仕方がない」
まるで子供扱いをされた気分になった乱歩は、両頬を膨らませて、不機嫌さを見せつけた。それでも、前を歩いている彼には全く視えることは無かった。
「誰かに誘拐でもされちゃうかもしれないからねー!社長がちゃんと護衛してくれるってことか。何だか懐かしいね」
懐かしい。
探偵社を設立する以前まで、福沢は用心棒を営んでいた。それを乱歩は思い出したのだ。そして、共に福沢も過去を思い返す。
「社長も老けたね」
「お前も同じだろう」
「違うよ!僕の場合は大人になった!僕はまだ童心も忘れていないからね」
それは、誰もが感じていることだろう。
冷たい風に晒されて、すっかり酔いが醒めてきたのか、乱歩は本調子に戻ってきた。とはいえ、傍から見れば変わらず、ふらふらしている男ではあるのだが、それでも福沢は彼の表情を見て、確信する。それだけ、二人の付き合いはもう随分と長い。そして、それだけ…二人は変わらないことを選び続けていた。
「社長、また明日!」
「おい、送っていくと云った筈だ。調子に乗ってふらりと道を外したら拙いだろう」
「もうへーきだよ。それにもう僕も老けたしね。社長居なくても大丈夫!」
そして、福沢を超えて走っていく乱歩。真っ直ぐ、前を歩いていた男を抜いて、振り返る。
「ばいばい!」
福沢の耳に彼の台詞が聞こえてくることは無かった。口の動きを見て、恐らくその様な事を云っていたに違いない、と推測。
そしてあっという間に福沢を置いて乱歩は一人で消えていく。
「………へーき、か」
一人で、呟く。道中に誰の気配も無いことを良いことに、口に出す。先程彼に云われた言葉を繰り返し、そして初めて…自分の心情が見えた。
本当は、もっと早くに彼との絆を深めて置きたかった。確かな形で繋いでおきたかった。いっそ乱歩を縛り付けておきたかった。
それでも、彼はその前に社長としての使命を考えて、彼からの告白を無視した。耳を塞いで聞こえないフリをした。それでも諦めない乱歩に安心していた自分が居たことに漸く気づいた。
「なんて愚かな人物だろうか」
彼が離れて行ったことで初めて、自分が第三者の目線で見れた。そこから見えた自分は、間抜けで、阿呆で、愚かな人物であった。
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