大人オリジナル小説

白楼雪短編集(R18BL)
日時: 2022/03/23 02:43
名前: 白楼雪


私の気紛れゆっくり更新短編集です。

最近長編が多かったので、短編を書こうかなと思いました。
遅筆ながら徒然なるままに書いていきます。

色の濃い短編となると思います。

上手く書いていければ、いずれ官能の短編集も書き始めるかもしれません。

それでは始めます。

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Re: 白楼雪短編集(R18BL) ( No.6 )
日時: 2022/05/13 07:33
名前: 白楼雪


 ※※※

温くなったコーヒーを飲む。手元の文庫本は矢崎の注文した熱いエスプレッソが運ばれた時に、藤途自身の鞄に仕舞い、今は手持ち無沙汰に窓の外に視線を向けていた。
会社の、それも親しい先輩に知られてしまった。
俺が同性との情事に興味があるという事を知られたのだ。
同性との関係を何れ程許容出来るか、抵抗の具合はどうかなど、そんなものは藤途の内心の問題であって言い訳にもならない。
自分でもまだ判らずにいると言うのに、他人が理解を出来る道理など有りはしないのだから当然の事だろう。
「あの、この事は他の人には秘密でお願いします」
エスプレッソの苦味を味わっている矢崎に、藤途は小さく会釈をして願った。
今の世の中、性差別で会社から解雇される事はないだろうが、余計な火種は点けないに限る。
まして藤途自身が異性愛者なのか同性愛もあるのか自分でも分からないのだ。不明な事は容易く口にしない。それが人間関係を円滑に進めるのに必要な物事の一つと言えるのだ。
頭を下げる俺の耳に、先輩の呆れたような声が聞こえた。
「言わねぇよ。人の愛だの恋だの性質だの、いちいち他人に話す奴はろくな者じゃねぇ。それに俺も同じような立場だ。お互い様だろう」
顔を上げ恐る恐る矢崎の表情を見ると、彼は眉間に皺を寄せエスプレッソのカップをテーブルに置いた。
「先輩、良い人ですね」
優しく誠実で頼りになる。そんな矢崎だからこそ尊敬出来ると、改めて思う。
そんな藤途に彼は口元に笑みを浮かべ、話題をずらす。
「本題に入ろうぜ。あのサイトでの事を考えると、お前、興味あるんだろう?」
喫茶店という場を考え言葉を濁す矢崎の言葉に、俺は言葉に詰まる。
数秒悩んだだろうか。間を置いてから小さく頷き肯定する藤途に、矢崎は瞳を伏せ腕を組み考える素振りを見せた。
「お前、明日は休みだよな?」
同じ会社の同じ部署だ。互いの休日は把握していても可笑しな事はなく、矢崎の言葉に頷くと、彼は残りのエスプレッソを飲み干す。
そして矢崎先輩はスマホを操作して、何やら調べ始めた。
「一応先輩だからな。今夜は俺が払うから、場所変えて話そう」
そう言って彼が見せてきたスマホの画像は、近くの観光客向けホテルだった。

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