大人オリジナル小説

白楼雪短編集(R18BL)
日時: 2022/03/23 02:43
名前: 白楼雪


私の気紛れゆっくり更新短編集です。

最近長編が多かったので、短編を書こうかなと思いました。
遅筆ながら徒然なるままに書いていきます。

色の濃い短編となると思います。

上手く書いていければ、いずれ官能の短編集も書き始めるかもしれません。

それでは始めます。

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Re: 白楼雪短編集(R18BL) ( No.5 )
日時: 2022/05/01 01:59
名前: 白楼雪


※※※

待ち合わせの日時と場所を決めた二日後の夜。
藤途は落ち着いたアンティーク調の喫茶店で文庫本を読み耽っていた。
正確には読み耽る素振りをしていたというのが正しいかもしれない。
喫茶店入り口近くのカウンター壁に掛けられた、これもまた木製のレトロな壁掛け時計は間も無く八時を示す辺りに短針が触れる辺りだった。
藤途の座る席は窓際奥のボックス席。こちらが窓の外を意識すれば外の細い道を歩く人々に気づけて、カウンターからはボックス席のソファーが良い具合に目隠しをしてくれる。人と待ち合わせをして、尚且つ探るには良い席だと言えるだろう。
時折手元の文庫本【淡雪】から視線を上げ窓の外をちらりと流し見る。
今日会う予定の待ち人である水色らしき人物はまだ現れそうもない。
(あっ、あれ先輩か?あの人もこの辺通るんだな)
窓の外に目を向けていると、見知った会社の先輩がどこか忙しなく通り過ぎて行く様子が見えた。
何気無くその良く知る人物の様子を視線で追っていると、先輩である矢崎はこの喫茶店【イリアン】の入り口に近寄り扉を開け店内に入ってきた。
(もしかして常連なのか?良い店知ってるんだな。話し合いそうだ)
そんな呑気な事を考えながら再び文庫に視線を落としていると、近くでダークウッドの床を乾いた足音が聞こえた。
少しずつ確実に近づく足音。時折踵を返したり、音が止まったり。
店員の足音だろうかと思いふと顔を上げ店内の通路へと視線を向けると、聞き慣れた声がした。
「おっ、なんだ藤途、お前も仕事帰りか」
ダークグレーのスーツに白のワイシャツ。紺のネクタイを緩めた男を見上げると、それは先程まで窓の外を早足気味に歩いていた矢崎だった。
「どうも、お疲れ様です」
文庫本に栞を挟み閉じると、俺も先輩に言葉を返す。
すると先輩は藤途の持つ文庫本に気づき、その本のタイトルを見て少し驚いたような表情を浮かべた。
「お前だったのか。あぁ、もうコレ必要なさそうだな」
そう溜め息混じりに苦笑した矢崎の左手には喫茶店特集の雑誌が掴まれていた。
「お待たせ、少し少し遅れたか?紫さん」
向かいの席に勝手に座る馴れ馴れしい先輩は、なぜかあのサイトでしか使ってない俺のハンドルネームを口にする。
カウンターの壁掛け時計は夜の八時五分過ぎを表し、目の前の男性が持つのは雑誌。
「エスプレッソ一つ」
水の入ったグラスを運んできた店員に矢崎が注文したのはエスプレッソ。
「先輩、水色って柄じゃないでしょう」
俺が内心困惑しながら溢した言葉に、矢崎は口元に微笑を浮かべ返す。
「お前は名前のままだな。藤途で紫。藤の花の色の一つだ」
切り替えの早い先輩は、からかうように俺を見て笑い答えた。

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