大人オリジナル小説
- ケモナーズ・メディスン ~ 獣人界の獣医師 ~
- 日時: 2017/01/25 13:17
- 名前: アスペル亀
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0674do/
犬科、猫科、ウサギ科、etc...
多種多様な獣人たちが暮らす現代社会を舞台にした医療小説です。
獣人の世界で活躍する人間の獣医師が診る、症例と獣人生の物語。
動物病院はもちろん、保健所での安楽死や食肉処理施設の屠殺解体などの社会のタブーも題材にしています。
ファンタジー世界ではありますが、内容はできる限り現実を投影させています。
*他サイトにて投稿中だった作品の中から、特に反響が多かったエピソードをピックアップしています。
ケモナー好きな絵師様、ガチで募集中です。
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- Re: ケモナーズ・メディスン ~ 獣人界の獣医師 ~ ( No.19 )
- 日時: 2017/01/25 13:02
- 名前: アスペル亀
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0674do/
ドン・ブッチリーノの葬儀に、喪服を着た大勢の獣人達が参列していた。
ファミリー側の構成員はもちろん、柴組會長も部下を引き連れ、運ばれていく棺を見送っていた。
ウエスティー属の神父が、神聖さを感じさせる白い被毛をたなびかせ、天への祈りの言葉を呟いている。
會長もその言葉に聴き入りながら、これまで接してきた多くの死を思い描いていた。
突然、會長は左腹部に熱を感じた。
覗いて見ると、鋭利なナイフが刺し付けられていた。
會長はナイフを持つ手から上り、その男の顔を見た。
甲斐属の男、カイであった。
「會長・・・お別れを言いにきました」
片目の潰れたカイの顔は、とても穏やかに見えた。
突き刺したナイフを抜き、今度は肋間に刺し込んだ。
胸膜、横隔膜を突き破り、組織をかき混ぜられる會長の口から血が溢れ出る。
声を上げることもなく、音も立てずに、會長はその場に倒れ込んだ。
大勢の参列者たちは、神父の言葉を聴き入っていた。
「汝、我らが世界を護りし神獣よ
この旅立つ魂を、安らぎの地まで送り届け給え
再びこのような地に、転生を起こさぬように
この者を運ぶ天使が、墜ちることのないよう、道を照らし導き給え
汝の翼は夜、忘れさせる夜、辛さ悲しさを忘れさせる翼
汝の被毛は海、思い出させる海、忘れたくなかった人を映す海
逃げなさい獣よ、怖れの国から、闇色翼に抱き守られながら
逃げなさい心よ、憂いの国から、時も届かない夢に逃げなさい
歌ってもらえる宛がなければ、人は自ら歌人になる
どんなに酷い雨の中でも、自分の声は聞こえるから
再びこのような地に、転生を起こさぬように
この者を運ぶ天使が、墜ちることのないよう、道を照らし導き給え
この者を運ぶ天使が、墜ちることのないよう・・・・
この者を・・・・」
會長は静かに呼吸を止めた。
カイの行方は、誰も知らない。
院長の読み通り、クーとスーの血清からは、彼らが細胞内に隠し持っていたウィルスの変異株への抗体タンパクが抽出された。
宮殿直営の国立獣人保険局は、彼らの体を使い切り、直ぐに新型ウイルスのワクチンを製造した。
結果、感染拡大は抑えられ、既に感染を起こしてしまっていた館にいた獣人たちも回復に至ることができた。
ブッチリーノ亡き後のファミリーは、イタグレ属のアランが引き継いだ。
院長に命を救われた借りも生じ、柴組一派と協力をして、今後も彼の病院をバックアップしていく方針で決定した。
そして、ロンは、公園のゴミ箱を漁っていた。
組からの裏切りを受け、結局生き残ってしまった彼には、行く場所が無かった。
雨風に晒され汚れきった被毛に、ハエが集る。
住む場所も無いまま、街を彷徨っていた。
行く当てのない徘徊に疲れ切り、ベンチへ座り込む”迷い犬”に、一人の人間属の男が話しかける。
「お前、行くとこないのか?」
ロンは相手も見ずに言う。
「何だよ?保健所か?もう殺処分かよ?次生まれてくるなら、俺はこの世界はもう嫌だぜ。こんな裏切りに満ちた世界なんざ・・・」
「そうじゃなくて、今は犬手が欲しいんでね。病院がこれから忙しくなるからな。別に嫌ならいいさ」
男は、院長は、土佐属の男に名刺を渡した。
「気が向いたら来な。お前の忠誠心は、買ってるんでね」
院長が去った後、ロンは名刺をじっと見つめる。
ケモナーズ・メディスン
獣人界の獣医師
院長
・・・・
おい!
何やってんだよ!俺!
早く院長追いかけろよ!
行くとこないし、また奴らに捕まったりしたら・・・
「待ってください!俺、ついて行きます!院長ぉぉぉぉぉ!」
ロンは宿直室のベッドから飛び起きる。
両腕を引き延ばし、必死に何かにしがみつこうとした。
ロンのひび割れた肉球が、バーバリの発達段階の両胸を鷲掴みにする。
瞬間、バーバリの回し蹴りがロンの頭部を襲撃した。
ロンはベッドから弾き出される。
「いきなり何よ!この変態ドスケベエロ中年クソオヤジ犬!死ね!生まれてきたことを土下座して死ね!」
バーバリは胸を両腕で隠し、ショックで涙ぐむ。
院長が眠そうに部屋に入ってきた。
「いきなり何だ?急患か?」
「先生!この変態土佐犬を今すぐ撃ち殺してください!こいつ、アタシの胸を〜!」
バーバリはあたかもより酷く乱暴をされたかのように、ナース服の乱れを直す仕草をした。
「すすすすすみません、院長。ちょっと昔の夢をみてたもんで・・・あいてて」
ロンが戻らない頸の曲がりを気にしながら言う。
「ほら、俺たちで解決した、あのキツネの・・・」
「お前、気絶してただけじゃねぇーか?」
「いや、あれは院長の打った薬のせいで〜」
二人の会話に除けられないようにバーバリが入り込む。
「ねぇねぇ、キツネって誰のこと〜?」
「もう、寝る」
院長は全く興味なかったのか、あるいはそれ以上話したくなかったのか、宿直室から出ていった。
冬の夜風が強かった。
眠れない街には、今日も多種多様な獣人達が、各々の獣人生を胸に突き進んでいた。
被毛に覆われた獣たちの住む世界も、やはり寒い面はあるのだろう。
転生しても、そこが本当に憧れていた世界であるとは限らない。
選んだ属性や職種が、本当にベストなモノだったかなんて。
院長はあの時の兄妹を思い出した。
二人の亡骸は、その後保険局により焼却処分をされた。
あの後、せめてもの弔いに、院長は二人の墓を建てた。
夜空を、一筋の流れ星が走っていくのが見えた。
また一人、天使がどこかに墜ちたかのようだった。
Case3 End
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