大人オリジナル小説

ケモナーズ・メディスン ~ 獣人界の獣医師 ~
日時: 2017/01/25 13:17
名前: アスペル亀
参照: http://ncode.syosetu.com/n0674do/

犬科、猫科、ウサギ科、etc...
多種多様な獣人たちが暮らす現代社会を舞台にした医療小説です。
獣人の世界で活躍する人間の獣医師が診る、症例と獣人生の物語。

動物病院はもちろん、保健所での安楽死や食肉処理施設の屠殺解体などの社会のタブーも題材にしています。
ファンタジー世界ではありますが、内容はできる限り現実を投影させています。


*他サイトにて投稿中だった作品の中から、特に反響が多かったエピソードをピックアップしています。
ケモナー好きな絵師様、ガチで募集中です。

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Re: ケモナーズ・メディスン ~ 獣人界の獣医師 ~ ( No.18 )
日時: 2017/01/25 13:01
名前: アスペル亀
参照: http://ncode.syosetu.com/n0674do/

「お兄ちゃん!やっと会えた!」
 スーはクーの拘束を解き、ボロボロになった彼の体を抱きしめる。

 スーのこれまで堪え続けた、飽和点などとうに超えていた辛さと寂しさが、堰を切ったように涙として溢れ出た。
彼女の体も、同じようにボロボロだった。

 クーも思いっきり抱きしめた。

 頭を割られたブッチリーノは、止まり行く生命活動の中、それでもクーへと手を伸ばそうとした。
しかし、届くことなく、地面へと落ちた。

「早く逃げよう!“あいつ”がまだこの世界に・・・」
 焦るスーに対して、クーは落ち着いた様子でいう。

「もう、大丈夫だよ。僕の細胞の中で、変異は無事に遂げられた。これから感染は拡大していく。このフレンチブルの男との“濃厚接触”のおかげで、ウィルスは外に出ることができた。だからもう、心配することなんて・・・」

「いいえ、まだよ!わたしはお兄ちゃんと暮らしたいの!だからこの世界に“転生”を・・・」

「やはり、転生族がまだいたか・・・」
 二人の背後に、白衣を着た人間の男が立っていた。

「あんたら、獣人界に転生してきた奴らだろ?キツネ属を選ぶとは、死角だったぜ。それもかなり強い身体能力を与えられてんな。
悲劇の獣人生に耐え忍びながら、最後は兄妹と一緒に平和に暮らす。そういうシナリオだろ?
その為、邪魔な獣人たちをこの世界から消すために、ウィルスまで持ち込んだ。しかし威力を発揮させるためには、この世界の生物の細胞に順応させる必要があった。外に出して感染させるためには、ある程度の濃厚な接触が必要だった。違うか?」

 人間の男は、二人に歩みよる。
スーが斧を構え、交戦状態に入った。

「近寄らないで!あんたも殺すわよ!」

「転生後は、思ったようには行かなかったみたいだな。あんたらの一度は築いた楽園も、滅んじまったんだからな。悪く思うなよ、俺にもこの世界での人生がかかってるんでね」

 全てを悟ったスーは、しなやかな肉体を乱舞させ、斧で男に襲いかかった。

 スーの目の前に“あの日”と同じ光が広がる。
自分たちの街を消し去った、墜ちた天使の放つ光だった。

 スーは躊躇わずに男へと斧を振り続ける。
全ての攻撃は男に当たっているかに見えた。
しかし、男は全くダメージを受けていない。

 光が広がりを落ち着かせた後、クーが目にしたものは、力なく手足を落としたスーの頸を掴み上げていた白衣の男だった。

 頸椎の髄神経から潰されたスーの体は、もはや指一つ動かせられなくなっていた。
呼吸筋への神経伝達も遮断されようとしていた。

 クーが叫ぶ。
「やめろぉ!そんなことをして何になるんだ!もうウィルスは外へ伝染した!もう止められないだろ!」

「あんたらの細胞内で変異したウィルスだ。あんたらには病原性を発揮しないってことだろ?つまりこの体には”抗体”がある。それをワクチンにする」

「なら僕を殺せ!妹は関係ない!」

 クーの叫びが部屋中に響く。
スーは辛うじて膨らませた肺の空気で、かすれた声を振り絞る。

「お・・にいちゃ・・・と・・・一緒に・・・・冒険・・・・・・したい・・・だけ・・・・」

 クーに、スーの無念さが伝わる。

 憧れだった獣人に転生し、兄妹で生まれ落ちた街で一緒に楽園を造りあげていくため、毎日が大冒険だったこの世界での生活・・・
その日常は、獣人としての父と母も、戦争によって消滅させられた。

 自分たちも行った転生によって引き起こされた戦争によって、自分たちが築いてきた愛するものたちも消されてしまった。

 それでも、僕らは獣人として生きる道を選び、ここまで来た。

 ただ僕らは、獣人として、獣人界で暮らしたかっただけなのだ。

「頼む・・・妹を殺さないで・・・抗体なら僕の体を使えばいい。だから・・・」
クーが涙を流し、懇願する。

 男は、全く表情を変えずに言い放つ。
「ダメだ。グラウンド・ゼロの生物は、例外なく根絶する」

「やめろぉぉぉぉぉ!」

 男はスーの頭部を反対方向へと捻じ曲げた。
彼女の瞳から、生気の光が瞬時に消えるとともに、一筋の涙が頬を伝うのが見えた。

「うぉぉおおおおぉおお!」
 理性の弾けたクーは男に飛び掛かる。

 しかし男の拳はクーの胸部を貫き、肺の呼吸能力と心臓の循環能力を止めた。

 破られた肺血管の血液がクーの口から溢れ出る。
絶命に至るまでの最期の一呼吸で、男へと尋ねる。

「・・・・・・お前も・・・・転生者なんだろ・・・・・なら・・・何で・・・こんなこと・・・」

「俺は、獣医師だからな。”害獣”を殺すのも、俺の仕事だ」
 男は無表情のまま答えた。

 息絶えたスーの体と重なるように、クーの体も倒れこんだ。

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