大人オリジナル小説

ケモナーズ・メディスン ~ 獣人界の獣医師 ~
日時: 2017/01/25 13:17
名前: アスペル亀
参照: http://ncode.syosetu.com/n0674do/

犬科、猫科、ウサギ科、etc...
多種多様な獣人たちが暮らす現代社会を舞台にした医療小説です。
獣人の世界で活躍する人間の獣医師が診る、症例と獣人生の物語。

動物病院はもちろん、保健所での安楽死や食肉処理施設の屠殺解体などの社会のタブーも題材にしています。
ファンタジー世界ではありますが、内容はできる限り現実を投影させています。


*他サイトにて投稿中だった作品の中から、特に反響が多かったエピソードをピックアップしています。
ケモナー好きな絵師様、ガチで募集中です。

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Re: ケモナーズ・メディスン ~ 獣人界の獣医師 ~ ( No.27 )
日時: 2017/01/25 13:12
名前: アスペル亀
参照: http://ncode.syosetu.com/n0674do/

 レミルは重い心情で職場へと車を走らせる。
ボヴィーナが出ていく気配がしたのは、分かっていた。
しかし、自分は引き留めることができなかった。
その勇気は持てなかった。

 彼女との昨晩の関係は、間違いなくこれまでの自分に満たされたことのないものだった。
彼女は、引き留めて欲しかったのだろうか?
一緒に逃げようって、言って欲しかったのか?

もしかしたら、人生で最も大事な選択を誤ったのかもしれない・・・

 レミルの携帯には、同僚から何通もの着信履歴があった。
屠畜場では今大騒ぎになっていることと、そのことで自分が疑われているからすぐに来いとの報告だった。

 いつもの屠畜場の前まで来たが、恐ろしくてとても入れない。
子供の頃、学校をさぼったのが親にバレて、そのまま家に帰ることが恐ろしくなった時のことを思い出した。
もう大人の年齢になったというのに、自分は何一つ変わっていなかった。

 膠着状態のまま、時間だけが過ぎ去っていった。

 昼を過ぎた頃、レミルの携帯に同僚からのメールが届いた。
その内容に、血の気が引いた。

「逃げた畜獣女は戻ってきたってよ!ジュンコ技師長が話があるそうだ。今すぐ来い!」

どういうことだ?戻ってきたって?

 レミルは屠畜場の駐車場へと車を進める。
恐怖心を必死で押し殺す思いで、ジュンコのもとへ出向いた。



 ジュンコは獣人畜棟の屠殺室にいた。
その前には、全身を何重にも縛り上げられたボヴィーナが天井から吊るされている。
食い込む麻縄の痛みに悶えた表情を見せる彼女に、作業員たちが取り囲み鞭を振り下ろし続ける。
マズルを口輪で閉ざされた彼女には叫ぶことすらできず、呻き声だけが悲痛に響き渡っていた。

「いよぉ・・・レミル・・・・お前が無断欠勤だなんてなぁ・・・・・」
 ジュンコは研究用の滅菌服を着ていた。
帽子とマスクで、その表情や口の動きは読み取れない。
しかし、その目は、明らかにレミルに対する怒りを含んでいた。

「お前か・・・・?コイツを・・・・逃がしたの?」
 レミルは恐怖で声が出ない。
「コイツは・・・自分で戻ってきた・・・・でも、どうやって逃げたのか・・・全然いわねぇんだよ・・・・お前じゃないんなら・・・そう言え」

 レミルは拷問を受けるボヴィーナの方を見る。
ボヴィーナもレミルを見つめていた。
昨夜の想いで、二人が通じ合う。

 レミルは声を振り絞って言う。
「俺・・・・・・
・・・・・
・・・・・・・じゃないです・・・・。
このウシ科獣人も知りません。昨夜深酒しちゃって、寝坊したんです。すみませんでした」

 ジュンコの目が不適に笑ったように見えた。
ジュンコはレミルに畜獣屠殺用の空気銃を差し出す。

「じゃあ・・・・コイツを・・・屠殺しろ・・・・お前がな!」

「まじ、勘弁してください」
 レミルは引きつった表情で訴える。
「俺には、出来ません」
「いいから・・・・ヤれよ・・・そうすりゃ信用してやる」

 レミルは震える手で空気銃を受け取り、ボヴィーナの方へ歩み寄る。
まるで処刑台の階段を上るかのように、一歩一歩が恐怖に沈む。
空気銃の先端がボヴィーナの額と密着する。

 近眼であったレミルは、このとき、彼女はとてつもなく優しい眼で自分を見つめていたことに気づいた。

 なんで彼女は、ここに戻ってきたのか?
それは、レミルの人生を自分のせいで台無しにさせたくなかったからだった。

「いいの。これが私の運命。だけど、あなたは、幸せになって」

 ボヴィーナの声が届く。
レミルはその黒い眼に涙を溜め込んでいた。

 そして、そっと引き金を・・・・


 ・・・・


「そのウシ科獣人、BSE陽性だぜ?屠殺したらちゃんと検査するんだろーな?」
 突然の、知らない男の声だった。
部屋にいた全員が声の方を向く。
レミルもそうだった。そして、そこにいた者を見て、今度は驚愕の気持ちが沸き立つ。

ジュンコ技師長以外に、人間が・・・・!?

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