大人オリジナル小説

ケモナーズ・メディスン ~ 獣人界の獣医師 ~
日時: 2017/01/25 13:17
名前: アスペル亀
参照: http://ncode.syosetu.com/n0674do/

犬科、猫科、ウサギ科、etc...
多種多様な獣人たちが暮らす現代社会を舞台にした医療小説です。
獣人の世界で活躍する人間の獣医師が診る、症例と獣人生の物語。

動物病院はもちろん、保健所での安楽死や食肉処理施設の屠殺解体などの社会のタブーも題材にしています。
ファンタジー世界ではありますが、内容はできる限り現実を投影させています。


*他サイトにて投稿中だった作品の中から、特に反響が多かったエピソードをピックアップしています。
ケモナー好きな絵師様、ガチで募集中です。

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28



Re: ケモナーズ・メディスン ~ 獣人界の獣医師 ~ ( No.2 )
日時: 2017/01/25 12:49
名前: アスペル亀
参照: http://ncode.syosetu.com/n0674do/

診療所の扉の前をネコ科の男が行ったり来たりしていた。
恋人が避妊手術を受ける直前に、自分が行ったところでどう振る舞えば良いのかが分からず、中に入る勇気が持てないでいた。

 男は時計を見る。まだ手術は始まっていないだろう。会うなら今しかない。

 でも、何と声をかけたらいい?女性じゃなくなっても、君を大事にするとでも言うのか?それで彼女が救われたことになるのか?

 やっぱり分からない。彼女のことを愛してたのに、何故この状況になってそんなことが頭をよぎるんだ!?

 男はそのまま立ちつくした。
いっそ引き上げようと考えた。

「おいお前、そんなとこで何やってんだよ?」
 外から男の様子を伺ってたロンが、業を煮やして扉を開けた。

「あ、お前、あのチャーミーってコのオトコだろ?悪いが最後の楽しみは俺が奪〜〜〜ぎゃあ!」
 ロンのケツに蹴りが入る。ロンは前方に倒れこむ。院長だった。

「自分の犯罪自慢してんじゃねーよ」
「すすすすみません・・・つい調子に・・・・」

「で、あんたは入んの?」
 院長は男に目線を移した。威嚇たっぷりの雰囲気に、男の声が詰まる。

「まあいいや。女はもう麻酔で眠ったから、面会なら終わってからにしてくれる?」

 院長が扉を閉めようとした途端、男の口が反射的に動き出す。
「俺、レオンって言います!チャーミーの傍にいます!入れてください!」

「あ、そう、じゃあ会わせてやるから来な」
 院長はレオンを手術室まで連れて行った。

 手術台にはチャーミーが仰向けに寝かせられていた。
口からは直接肺に酸素を送り込むチューブが伸び、人工呼吸器に繋がっている。
定期的な肺の膨らみと心拍音が、彼女を完全な機械へと変えていた。
器具台には、これから彼女の体を侵襲する冷たい色をした金属類が並べられている。
目を引く心電図のモニターは、まるで彼女の魂がそこに転送されたかのようで、彼女もそこから自分の抜け殻を見つめているのではないかと感じられた。

 レオンはチャーミーの手を取り頬ずりをしながら、涙声で呟いた。
「何でこんなことしなきゃならないんだ・・・」

「法律で決まってるからだろ」
 院長が感情の無い声で言う。
「お偉いさんが決めたことを、お偉いさんを信じる皆がやってるんだから、お前らもやるんだよ。幼獣でも解る簡単な理屈だ」

 全く自分の気持ちを考えるつもりの無い院長をレオンは睨みつけるが、院長は続ける。
「確かに別の世界から見たらこの法律は異常かもしれないな。でも俺らはこの世界の存在だ。この世界のルールに従うんだよ。てめぇが受け入れられるか?それが強さだ」

「なら俺は弱いよ!今、目の前で彼女が大切なものを失おうとしてるのに、何もできねぇんだからな!」
レオンの叫びが手術室中に響いた。
 振動のせいだろうか、これまで一定だった心電図の波形が乱れた。

 暫くの沈黙の後、院長は波形が通常に戻っているのを確認してから話し出す。
「あんた、去勢してんの?」

「・・・ああ、14の時に取ったよ。だから何だ!」

「へ〜、自分はもう男じゃねぇってのに、この女が女じゃなくなるのは嫌なんだ」

「嫌だよ!愛してるから!」

 レオンは自分が何を言ったのか解らなかった。何を考えたわけではない。ただ、本当に、腹が叫んでいた。
診療所の扉を開ける前では、とても出てこなかった気持ちであった。
心電図の波形がまた乱れた気がした。

「あ、そう。じゃあもう手術始めるから出てけ」
 その声にもやはり、優しさや慈悲の気持ちは含まれていなかった。
手術室が再び機械音だけになる。

「おい、ロン!いつまでそこにいるんだ!仕事しろ!」
 扉の外で尻を撫でていたロンは、慌てて手術室へ走った。

 点灯した手術中の文字を、レオンは悲しみと憎悪と贖罪が入り混じった感情を抱き、睨みつけていた。

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大7000文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。