大人オリジナル小説
- ケモナーズ・メディスン ~ 獣人界の獣医師 ~
- 日時: 2017/01/25 13:17
- 名前: アスペル亀
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0674do/
犬科、猫科、ウサギ科、etc...
多種多様な獣人たちが暮らす現代社会を舞台にした医療小説です。
獣人の世界で活躍する人間の獣医師が診る、症例と獣人生の物語。
動物病院はもちろん、保健所での安楽死や食肉処理施設の屠殺解体などの社会のタブーも題材にしています。
ファンタジー世界ではありますが、内容はできる限り現実を投影させています。
*他サイトにて投稿中だった作品の中から、特に反響が多かったエピソードをピックアップしています。
ケモナー好きな絵師様、ガチで募集中です。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28
- ケモナーズ・メディスン ~ 獣人界の獣医師 ~ ( No.1 )
- 日時: 2017/01/25 12:49
- 名前: アスペル亀
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0674do/
Case 1 成獣不妊法
その日の空は厚い雲で隠され、重力が鉛色の雨粒を地上へ幾度となく叩き付けている。
山々に住む野生の幻獣たちは、恵みの一日を自分たちの群れで暮らす。この日は獣人のハンターに狙われることもない。
診療所の待合室では、一人の女性が窓際に顔を持たれ掛け虚ろな目で外を見つめていた。
地面に叩き付けられる雨粒一つ一つに、名前なんて無い。最期は同じ一つの塊になるだけだ。
「フェライン様、診察室にお入りください」
声が聞こえた診察室へと進む。それは自分の体では無い気がした。
患者名:チャーミー・フェライン
成獣不妊法対象者、本日手術予定
獣人類哺乳目ネコ科雑種属、女性、19歳、
身長160cm、Bw 49 kg
全身均一な桃色の被毛、耳は一般耳、瞳はエメラルド色、肩まで下げた髪の毛にまだあどけなさが残る表情には、これから自分の身に起こる運命を受け入れることができていない様子が表れている。
担当医はイヌ科土佐属の男、40歳であった。患者の容姿に看取れている様子を隠そうともしない。
「チャーミー・フェラインさんですね。今回あなたの手術を担当しますロンです。ロン先生で構いません。まずは身体検査をしますので、下着も含め身に着けている物は全て脱いでください。」
当然のように戸惑いが襲う。しかし、決められた手順である。チャーミーは恥じらいながら衣類を脱ぐ。
若い被毛は光沢をもち、柔らかに全身を包んでいる。臍部を中心に胸部から下腹部までは被毛は薄くなっている。微かに割れて見える腹筋と、ハリのある整った乳房、健康的に形どっている腸骨ラインから下は肉厚を感じる大腿と、尾椎の付け根からスレンダーな尾が伸びている。
久々の上玉にロンはこの仕事のやりがいを噛み締めた。
「それじゃあ触診しますね、まずは乳癌検査をっと〜」
ロンの固く乾燥した肉球が乳頭に触れる。
チャーミーの体が硬直し、頬は火照りを増した。微かな吐息をもらす。動かないようにしていても、沸き起こる生理的な刺激に尾が敏感に反応を示し地面と水平に振子運動をしてしまう。
ロンはチャーミーの被毛を一つ一つ分けながら全身の皮膚の状態もチェックする。若い女性の香りがイヌ科の嗅覚に心地よく響く。ロンの触診視診が陰部に及ぶ。もはや我慢ができなくなったロンは、ついにチャーミーを診察床に押し倒し、火照った顔を長い舌で激しく舐めだした。
「いや!先生、止めて!」
チャーミーは声を漏らす。ロンを押しのけようとするが、土佐属の力にネコ科は到底及ばなかった。
ロンは涙を浮かべたチャーミーの顔にさらに興奮を増し、激しく息遣いながら聞かせた。
「どうせ、君は今日で女じゃなくなるんだから、最後のいい思いでを作ってやるよ、へへへ」
その言葉をチャーミーは酷く冷静に聞き取れた。抵抗していた体から力が抜ける。
そうだ、わたしは今日で女じゃなくなる。これから卵巣と子宮を取り除かれるんだ。
成獣不妊法。
余分な遺伝子の繁殖拡大防止と、精錬された子孫の保持を目的として作られたこの法律により、ある特権階級以外の獣人は生殖適齢期までに不妊手術を受ける義務が生じていた。
男性ならば精巣の摘出、女性ならば卵巣子宮の摘出である。
施術後は、もはや生殖能力がもたらす快楽もなくなるらしい。好きな人も好きとは思えなくなってしまうのだろうか?
いや!わたしはもっと恋がしたい!好きな人との子供も欲しい!こんな法律、どうして・・・
ロンの愛撫が続く。チャーミーは精神を体と引き離そうとしたが、性的感覚の束縛の前には無駄な足掻きだった。
「おい、ロン、てめぇ何やってんの?」
2人しかいないと思われていた診察室に、いつの間にか一人の男が立っている。
ロンが慌てて起き上がり乱れた着衣を直すことも忘れてしゃべりだす。
「あああ・・・こ・・・これはですね・・・・院長・・・・」
院長?どうやらこのクリニックのトップらしい。
涙で曇ったチャーミーの眼に、蛍光灯をバックに仁王立ちしたガタイの大きいシルエットが移る。
次に白衣と首から下げた聴診器が認識された。
次第に眼が慣れたチャーミーがみれたのは、もみあげがつながった顎鬚、淵のある眼鏡、短髪に眉毛のつり上がった強面の・・・・
チャーミーは自分に見えていたものを把握するのに時間がかかった。
・・・うそ、この人、人間!?
「いや〜これには訳がありまして・・・なんというかイヌ科で俺みたいなオオカミ寄りの属ってのは食欲と並んで性欲が力の根源にあって〜〜〜ぎゃあ!」
男がロンの鼠蹊部を足で蹴り上げた。天井を突きそうな勢いでロンの体は跳ね上がり、そのまま後方に倒れこんだ。
そしてロンの髪を鷲掴みにして顔を近づけて言った。
「汚ねぇもんを診察室でオッタテやがって、こんどやったら陰茎切除するっつったよな?」
「すすすすみません。もう二度としませんから!堪忍してください!」
急所を突かれた激痛と目の前の恐怖で、ロンの顔は涙と涎の亢進を抑えられずくしゃくしゃだった。
院長と呼ばれる男は次にチャーミーの方を向いた。
「身体検査は終わりだ、服を着ろ」
「あの・・・」チャーミーは恐る恐る口を開いた。
「何だ?」
「人間の方・・・ですか?」
「は?何当たり前のこと言ってんの?それより早く服着ろよ。そしたら次は血液検査だ」
男は表情を全く変えることなく答えた。
チャーミーは人間を見たのが初めてだった。
体表にほとんど被毛を持たない哺乳目で、特に際立った身体能力も持たない生物。
その無防備な存在の割には繁殖力にも乏しく、一人の個体が生涯残す子孫は2人にも満たないと言われ、今では最重要絶滅危惧種として国家が積極的に保護を掲げている。
顕になっている男の表皮に、頬が再び赤らんだ。
「あ・・あの・・・」
チャーミーははにかみながら言う。
「さっきは、ありがとうございました、え〜と・・・何とお呼びすれば?」
「院長でいいよ」
男がシリンジに針を付けながら言う。
「あと、礼なんかいらないよ。あんたがあんな状態じゃ、これからやる血液検査に影響がでるからな」
「あ・・・そう・・・ですよね」
さっきの診察室での事に、まだ彼女の尾が踊っている。
「じゃあ腕出して」
男はチャーミーの右腕の静脈に管を通す。そのまま管から血液を抜き、プラグでふたをした管をそのまま腕に留置した。
「血液検査で異常なかったら、こっから麻酔入れるから。そのまま眠ってれば一時間くらいで終わるから」
淡々と話す男の表情には、一切の優しさも慈悲も含まれていなかった。
チャーミーの涙腺が再び腫脹してきた。
「何か質問ある?」
チャーミーはゆっくり首を振った。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28