大人オリジナル小説
- ケモナーズ・メディスン ~ 獣人界の獣医師 ~
- 日時: 2017/01/25 13:17
- 名前: アスペル亀
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0674do/
犬科、猫科、ウサギ科、etc...
多種多様な獣人たちが暮らす現代社会を舞台にした医療小説です。
獣人の世界で活躍する人間の獣医師が診る、症例と獣人生の物語。
動物病院はもちろん、保健所での安楽死や食肉処理施設の屠殺解体などの社会のタブーも題材にしています。
ファンタジー世界ではありますが、内容はできる限り現実を投影させています。
*他サイトにて投稿中だった作品の中から、特に反響が多かったエピソードをピックアップしています。
ケモナー好きな絵師様、ガチで募集中です。
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- Re: ケモナーズ・メディスン ~ 獣人界の獣医師 ~ ( No.24 )
- 日時: 2017/01/25 13:10
- 名前: アスペル亀
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0674do/
院長とロンは北の王国の食肉衛生管理センターのビルへと入る。
一国の国営施設なだけあり、厳かな雰囲気を構えた大人の建物に、ロンがはしゃぎだす。
「すげぇ立派な建物っすね〜。どんだけ税金掛けてんのか?見てくださいよこのエントランス、天井高すぎでしょ?」
一方、院長は憮然とした表情のまま進む。
これから会わなければならない人物との気まずさに、この仕事を引き受けた自分の選択を後悔した。
BSE精密検査室は、陽圧維持、エアーカーテン付きの完全無菌の衛生空間であった。
二人は、帽子、マスク、ゴム手袋に、全身を滅菌服に包み、その部屋に入る。
院長はそこで待っていた女を見て呟く。
「”精神衛生”は完全に無視なんだな・・・」
「いよぅ・・・院長・・・・似合ってんじゃねーの?」
ジュンコも同じ格好で出迎える。マスクで顔のほとんどが隠れていても、まつ毛の目立つ大きい瞳は強い眼力を光らせている。
よく見ると、書いた眉毛にアイシャドーもしていた。
耳にはお気に入りのイヤリングを飾り、とても実験室には不釣り合いな勝負メイクだった。
「何だ・・・汚ねぇ犬まで・・・連れてきたのかよ」
ジュンコはロンを見て言った。
「え?マジで?何処にいんだ?」
「おめぇだよ!」
あたりを見回すロンに、ジュンコはイラつきを隠さずツッコむ。
ジュンコの瞳が院長の方へ動く。
「おいおい・・・挨拶はねぇのか?・・・・まぁ・・・いいけど」
「こっちは予定していた患者の診察をキャンセルしてまで来てるんだ。とっととやる事を説明しろ。お前の態度次第じゃ、こっちはいつでも帰る気でいるぜ」
院長も挑戦的に返す。二人の間に張り詰めた空気が漂う。
ジュンコは一本のエッペンチューブを見せた。
「これが・・・何だか・・・解るか?・・・・本物の・・・BSEプリオンだ」
院長の瞼がひきつったのを、ジュンコは見逃さなかった。
「お前ならこれの恐ろしさ・・・解るよな?・・・これからこれを使ってやる検査も」
「そのサンプルをポジコンに、対象のウシ科獣人の全頭検査をするってことか。一体何検体あるんだ?」
ポジコンとは、ポジティブ・コントロール(陽性試験)のことであり、検査の正確性を高めるために必要な対照サンプルである。
「さすがぁ・・・だけど・・半分だけ当たりだ」
「何だと?」
「全頭を対象に・・ウシ科獣人の検査はする・・・・でも、陽性は出さない」
「は?それじゃあ、検査の意味ねぇだろ?何のためにそんな危ねぇポジコン使ってんだよ?」
「いや・・・解ってんだろ?・・・北の王国が酪農でなりたってることくらいよぉ?」
話を聞いていたロンにもジュンコの狙いが分かった。
この人間属の女獣医は、BSEは限局的な発生に留まり拡散はしていないことを、証明・・・いや、でっちあげたいんだ。
「そっちの王国の獣医であるあんたもこの検証実験に参加すれば、あんたんとこの国王も信じるだろう?・・・そっちもこの王国の肉のおかげで食うことに困ってないんだから・・・お互いWIN-WINといこうぜ」
ジュンコの話し方から、徐々に”溜め”が短くなっていく。やはり、疲れるようだ。
ジュンコは院長へと歩み寄り、まつ毛を際立たせた瞳で院長の目を見つめる。
さっきまでとは違う、甘えたような声がマスクの中から聞こえた。
「ねぇ?アタシと一緒にまた、”転生前”みたいに・・」
「断る」
院長は目線を反らすと同時に言い放った。
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