大人オリジナル小説
- ケモナーズ・メディスン ~ 獣人界の獣医師 ~
- 日時: 2017/01/25 13:17
- 名前: アスペル亀
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0674do/
犬科、猫科、ウサギ科、etc...
多種多様な獣人たちが暮らす現代社会を舞台にした医療小説です。
獣人の世界で活躍する人間の獣医師が診る、症例と獣人生の物語。
動物病院はもちろん、保健所での安楽死や食肉処理施設の屠殺解体などの社会のタブーも題材にしています。
ファンタジー世界ではありますが、内容はできる限り現実を投影させています。
*他サイトにて投稿中だった作品の中から、特に反響が多かったエピソードをピックアップしています。
ケモナー好きな絵師様、ガチで募集中です。
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- Re: ケモナーズ・メディスン ~ 獣人界の獣医師 ~ ( No.28 )
- 日時: 2017/01/25 13:12
- 名前: アスペル亀
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0674do/
「どういうことだ!?いんちょぉぉぉ!」
ジュンコが叫ぶ。
怒りと戸惑いで、普段の口調はもう飛んでいる。
「言った通りだ。その20789号は、BSEに汚染されている。だから延髄から必ず異常プリオンが検出されるはずだ。検査結果の捏造はできねぇーぜ」
「言ってる意味がわからねぇ!何でこの雌牛がBSEに罹患してるってわかるんだ!?」
レミルも同じことを思っていた。
BSEの異常プリオンに犯された者は、数年間の潜伏期間を経た後、徐々に脳がスポンジ状に変性をしてきてからようやく臨床症状が現れてくる。
知覚過敏や昏睡、攻撃的になる等の神経症状が出て、初めて”外から”分かる。
症状の出ない時点では、延髄に蓄積される異常プリオンの検出しか診断方法はないはずだ。
ボヴィーナに、そのような兆候は全く見られていない。
この人間属の男は、どうして?
院長は白衣のポケットから、一本のエッペンチューブを取り出した。
ジュンコの目が、怒りから驚愕の色に変わる。
「てめぇ・・・・まさか・・・・・」
「そう、俺も持ってんだよ。BSEプリオンのポジコン用サンプルを」
エッペンチューブの半分は、透明な液体で満たされていた。
「これを、そこの彼女に飲ませた。彼女の躰は、必ずプリオン汚染の陽性が出る、”汚れたトレーサビリティ”だ。
屠殺した全頭を検査しなきゃなんねーんだろ?他が全部陰性であっても、20789号のトレーサビリティで陽性が出なかったら、その検査はインチキってことになるからな」
そうか、だからボヴィーナだけ口輪が外れていたのか!
レミルは思った。
「レミル!その女を殺すな!屠殺は中止だ!」
ジュンコの命令を聞くまでもなく、レミルは既に空気銃を手放していた。
レミルはボヴィーナの頬を両手で包む。二人は眼を合わせて、助かったことを心の中で喜び合っっていた。
レミルの手をボヴィーナの涙が濡らす。これまで流したことのない温かい涙だった。
「院長!てめぇは自分のやってることがわかってんだろうなぁ!てめぇはこの国の酪農を潰して、ここで働く作業員全員を路頭に迷わせようとしてんだぞ!
皆、食うために仕事をしてんだよ!ここでの仕事は、こういう仕事だから、子供に言えないヤツだっている!気の狂った愛護団体から命を狙われてるヤツだってな!
でも、これが仕事だ!アタシらみたいな仕事をする奴らがいるから、お前ら何も知らない連中が食うに困らないってことを、忘れんじゃねぇぇぇっ!」
ジュンコの怒号が屠殺室内に響き渡る。
そこにいた作業員達の中には、ジュンコのその言葉に、涙を浮かべる者もいた。
暫くの間が空き、院長が淡々と返す。
「あ、そう。俺は食う側だから知らね。食う獣人の安全と健康を守るのが俺の仕事だ。”生かす獣医”としてな」
それは明らかに、臨床獣医師としての、考えであった。
しかし、世の中には、実験動物、食肉動物など、動物を上手く社会に利用させようと命をコントロールするという、獣医師として大切な仕事もある。
それを仮に”死なせる獣医”と冠づけるなら、院長とジュンコの間には、永遠に埋まることの無い隔たりを認めてしまう。
ジュンコに、失恋に似た悲しみが一瞬込み上げる。
しかし直ぐに内へと押し込め、マスクと帽子を取った。
「てめぇは・・・てめぇだけは・・・・ぜってぇ殺す。頸を洗っとけよ!いんちょぉぉぉ!」
院長は無言のまま、その場を後にした。
その後、報道より
北の王国がBSE終息宣言。
異常プリオンは限局的な単一発生と断定。
我が国のライオネル国王は、北の王国の農産物は引き続き積極的に取り入れていく方針を発表した。
「あちゃ〜、事情を知ってる俺らからすれば、これでもう肉が食えなくなるじゃないっすか!感染してもいいから何も知らずに食えた方のが、俺は幸せでしたよ!」
ロンが記事を読み、悲嘆に暮れる。
院長は、全くどうでもいいように話す。
「そんなに心配することじゃねぇよ。異常プリオンには蓄積する部位がある。ほとんどそこに偏ってるから、そこだけ除去すりゃ心配ねーんだよ」
「でも俺、実際にウシ科の女の子たちの扱われ方を見て、正直ショックでした。あんな運命に生まれても、それを受け入れるしか無いんだなんて・・・もう、肉を食うたび感謝しなくちゃいけないっすよね!」
どういうわけか知らないが、ロンはこの話を美しくまとめたいらしい。
「それにしても、あのジュンコって人間も、屠畜場の作業員達もよかったっすね。うちの国王が寛大で」
「そうでもねぇ。ガチで貿易止めるみてぇだったから、ちょいと手を打った」
「へ?手を打ったって・・・?」
ロンの後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「アタシがパパに言ったのよ。ライオネルは、アタシの言うことは何でも聞くからね〜。この国を動かしてるのは、アタシだっていうことよ!」
ネコ科ヒョウ属のライオン美少女が、ナース服で現れる。
「あ〜!お姫さんじゃん!なんだよ、そのコスプレ!めっちゃくちゃエr・・・・可愛いよ」
院長の前だからだろうか?ロンは無意識に咄嗟の言葉の選択をした。
コスプレ発言にカチンときたバーバリは、自分に見惚れる様子を隠そうともしない野蛮な犬を無視する。
「え・・・まさか・・・ガチ?」
「そうよ!今日からここの看護師になりま〜すバーバリです。よろしくね、ロン!」
「いや、看護師なら先生って呼べよ!俺はここのナンバー2医師だぞ!」
「二人しかいないでしょ!院長のことを先生と呼びます。だからあなたはロンってこと!言っとくけど、アタシに手を出したら、国家に対するテロ犯罪になるから、変な考えは起こさないでよね」
「マジかよ〜・・・」
ロンは、めんどくさいとも、これからが楽しみとも取れる気持ちに満たされる。
「院長も物好きなことしますね〜。BSEプリオンを使って検査の偽りを暴こうと思ったら、今度はお姫さんを使って国王の方針を変えさせて丸く収めるだなんて・・・本当は一体、何がしたいんっすか?」
ロンのそれは、当然の疑問であった。
院長は、口元を少し緩め、静かに言った。
「”あいつ”への・・・嫌がらせかな?」
ロンは呆れた様子で笑った。
「いや〜、一生付いていきますよ!院長!」
北の王国
静かな山奥の小屋
そこにレミルは引っ越していた。
彼の世界で一番大切な彼女であるボヴィーナも一緒だった。
今の屠畜場の仕事も続けているが、何の心配もいらなかった。
彼女は理解してくれていた。
私は生まれた時から、あそこで屠殺されること、それは運命だったから。
その運命が、どういった神様のいたずらだろう?この人とめぐり合い、まだ生きる道を与えられたことは、きっと意味がある!
BSEプリオンに汚染された私の躰は、そんなに長くはない。
それでも、残された時間をあの人と、いい人生を・・・
「ボヴィーナ!”大切な体”なんだから!お家で休んでてよ!」
レミルは慣れない手つきで美女をエスコートする。
ボヴィーナは少し膨れた自分の下腹部を優しく触る。
自分の体を、こんなにも愛して大切にしてくれる人に出会えたことを思い、また温かい涙が零れそうになるのを堪える。
そして、彼女は誓う。
この子には、もっといい人生を。
バーバリは話に混ざるため、ロンへ質問する。
「ねぇ〜、BSEのプリオンって、今ここにあるの〜?」
「そうだ、院長?プリオンのポジコンって、今どこなんですか?あんな危ないモノ、この仔猫が口に入れたりしたら大変ですよ!」
ロンのお道化に、バーバリの目が座る。
「ああ、あの時の?あれ、ただの水だから。異常プリオンなんて、持ってるわけねぇーだろ」
院長は、無表情で答えた。
Case4 End
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